いまシリコンバレーをはじめ、世界で「ストイシズム」の教えが爆発的に広がっている。日本でも、ストイックな生き方が身につく『STOIC 人生の教科書ストイシズム』(ブリタニー・ポラット著、花塚恵訳)がついに刊行。佐藤優氏が「大きな理想を獲得するには禁欲が必要だ。この逆説の神髄をつかんだ者が勝利する」と評する一冊だ。同書の刊行に寄せて、ライターの小川晶子さんに寄稿いただいた。(ダイヤモンド社書籍編集局)

「タイパ」を上げるのが本当にベスト?
仕事に対する姿勢は、人によってさまざまだ。
会社員なら、「ただ与えられたノルマをこなしさえすればいい」という人もいるだろう。それはそれでひとつの考え方ではあると思う。
一方で、最大限まで「タイパ」を上げようと言う人もいる。効率よく成果を上げようというわけだ。
私と同じフリーランスでも、タイパよく働いて高い成果を出している人たちがいる。
SNSで、「月にいくら簡単に稼いだ」「AIを使って効率が何倍にもなった」といった投稿を見ることもある。
効率を求めるとあまり満足の行くものができないと感じている私には、とてもできないと思って落ち込むこともあった。
しかし、古代ギリシャの哲学「ストイシズム」を知ったいまでは、落ち込む必要はないことがわかっている。仕事を「美徳の実践」ととらえることができるからだ。
仕事を「生活の手段」と考える割合が大きいほど、タイパは重要だろう。なるべく効率よく報酬を得ることが善となる。
だが、人生において仕事をただの「生活の手段」とだけとらえるのはもったいないのではないだろうか?
仕事は人生の目的ともなりうるものだ。それが大げさなら、自己実現や、単純に「楽しみ」の場ととらえることもできる。そして、美徳の実践ができる場でもあるのだ。
ストイックに考える
ストイシズムでは、美徳を実践することで幸福な人生を送ることができると説いている。「知恵」「正義」「勇気」「節制」という4つの美徳に即した行動をとることが大事だという。
これを自分に当てはめて考えるなら、
「うわべにとらわれず、物事の本質を掘り下げて判断し(知恵)、誰に対しても思いやりを持って公平で中立的な態度で接し(正義)、あえて困難に立ち向かい(勇気)、スマホや酒や金銭的な報酬や名声などの誘惑に対して自制心を持つ(節制)」
といったことになる。
こうした美徳の実践こそが重要だと考えるなら、タイパはどうでもいいことである。
ストイシズムの哲学者、セネカは次のように説いている。
美徳を実践する
そのような人生には、知る価値のあるさまざまなこと、つまり美徳を好んで実践すること、情欲を忘れること、生と死について理解すること、そして深い安らぎを得られる生活が待ち受けている。(セネカ『人生の短さについて』)
――『STOIC 人生の教科書ストイシズム』より
「きびきびとした足取りで」というのがいい。
現実にはお金も必要だし、タイパが悪すぎれば生活していけない。納期だってあるから、いくらでも時間をかけていいわけでもない。うまく折り合いをつけていかねばならない。
でも、その中でも、仕事を美徳の実践ととらえ、人としての成長の場と考えると心を平静に保てる。誠実に働くほど、よりよい方向に歩みを進めていると信じることができるのではないだろうか。
ストア哲学者たちは、美徳の実践をすることで最高の自分が引き出されると言っている。
最高の自分として生きて、仕事をして人に喜んでもらえるのならば、これ以上ない充足感が得られるに違いない。
(本原稿は、ブリタニー・ポラット著『STOIC 人生の教科書ストイシズム』〈花塚恵訳〉に関連した書き下ろし記事です)