前述したように、女性客は「稼げる金額=自分の価値」と刷り込まれているため、他の客と稼ぎを比較されようものなら、自分は努力が足りないし、被りよりも女性として価値が低いと思い知らされることになる。
ホストクラブは基本的に娯楽であり楽しむ場所だったはずが、「努力して担当の側に居続ける場所」に変わっていく。
「自分はこれだけしかお金を出せないから、担当に好きっていう資格はない」「1日10万円稼げなかったら人権はない」「担当に申し訳ない」と自ら歪んだ規範をつくり、「このくらい頑張って稼いでホストに支払ったんだから、ここまでの対価を求めていいはずだ」という独自の価値観を生み出す。
結果、大してお金を使っていない「細客」が担当ホストに何かを要求したり、頑張って稼いでもいないのに楽しそうにホストクラブに通ったりする客のことを不快に感じる。
自らがつくり出した規範とのズレをSNSで発信するのだが、周りからは、ホスト遊びをあたかも苦行のように落とし込んでいるように見えてしまうのだ。
自己肯定感をすり減らし
特別感を得る
こうしたサイクルの背景には、「ホストのくれる言葉は基本的に営業トークであり、自分にしてくれる行為はすべて金目的である」という前提、決して金だけではない部分があると信じたい欲望、さらに「自分は痛い客になりたくない」というプライドがあるのではないだろうか。
自分が傷つかないために、相手はあくまでホストで自分は客だと言い聞かせる。

好きな男に嫌われたくないという当たり前の感情があるなか、「大して金も使ってないのに勘違いしていろいろ求めてくる痛い奴」と思われたくがないために素直になれない。
女の子として好かれたいという根本の欲望を隠しながら、せめて理想的な消費者として金銭を投じようと試みる。
「お金を使えるから自分は価値があるんだ、担当から必要とされているんだ、好かれているんだ」と自己を矮小化することで、傷つかないように身を守る。
その結果、ホストクラブで寂しさを一時的に埋めることはできても、自己肯定感はじわじわと削られていく。
ホストクラブで満たされる一時の特別感や優越感は、自己肯定感をすり減らすことで得られているのだ。