ドーパミンがなくなって無気力になり、食べることさえやめてしまったラットの実験がある。ラットでも人間でも同じだが、普通なら食べ物を見るとドーパミンのレベルが上がり、食べたいというモチベーションが生まれる。
つまりドーパミンが増えるのは「食べている時」ではなく、食べ物を見た時点だ。そこでドーパミンのレベルが上がらなければ食べ物のことなどどうでもよくなる。充分に興味深い対象ではなかったのだ。
注意を食事に移せない理由は
スマホのドーパミンが強烈だから
しかし何をするにしてもモチベーションは欠かせないし、モチベーションを得るためには脳でドーパミンのレベルが上がらなければならない。
別の物に注目を移す際にも同じことが言えて、「集中力を移動する」モチベーションが湧かなければならない。
例えばスマホをいじっている最中に食事を差し出されたら、スマホから食事へと注意を移したくなるくらいに脳でドーパミンが増加しなければならない。
しかし報酬系に充分なドーパミンが出ないと――それは満腹だからかもしれないし、その料理が嫌いだからかもしれないが――注目を移したいとは思えない。ちらりとお皿に目をやっただけでまたスマホに没頭するだろう。つまり注意を移せなかったのだ。
一方でゲームは素早くドーパミンのごほうびをくれ、ドーパミンのシステムをオンにし続ける。ちょっと画面を見ただけでも、視覚や聴覚への刺激が間断ないことがわかるだろう。何もかもが動いていて、毎秒新しいことが起きる。脳にドーパミンが増え、ゲームを続けたくさせるのだ。アメリカの研究者はこの状態を「screen sucking(画面に吸い込まれる)」と名付けている。
ADHDの傾向の強い人は報酬系がうまく起動しないことが多いので、人によってはゲームが集中を持続できるほど報酬系を活性化してくれる唯一の存在かもしれない。ゲームはプレイヤーを引き留めておくために次々と新しい刺激を与え、力強くドーパミンを増加させるからだ。