USスチール買収コストは3兆6000億円に!
日本製鉄は2021年3月に発表した中長期経営計画で、「総合力世界トップを目指す」と宣言。そこで重視したのが米国事業の強化だった。
主要先進国の中でも、米国は人口が増加傾向にあり、鉄鋼需要が増加する期待も高い。自動車やインフラ整備向けに加えて、AI関連のデーターセンター建設でも鋼材需要が伸びると予想される。
米国の鉄鋼需要は約1億5000万トン/年、うち自給率は約55%にとどまるようだ。トランプ政権は、製造業の復興を重視している。理屈で考えると、米国で鉄鋼製品の生産量を増やすことができれば収益拡大の可能性は高い。こうして日本製鉄は、USスチール買収を決断したわけだ。
ただし今回の買収に当たって、日本製鉄は米国政府と、国家安全保障協定(NSA:National Security Agreement)と黄金株の発行を取り決めるに至った。国家安全保障協定は、さまざまな条件を日本製鉄に求める。主に、会社名と本店所在地を維持すること。米国政府は、USスチールのコーポレート・ガバナンスにも関与する。最大9人が構成する取締役のうち、2人は対米外国投資委員会(CFIUS)の承認を得た米国籍の独立取締役でなければならない。
日本製鉄が米国政府に発行する黄金株は、いくつかの権利を持つ。政府が、独立取締役1人の選解任権を持つ。少なくとも3人の取締役は、米国政府の利害の代弁者になるだろう。また、USスチールは、NSAが条件とした設備投資の削減、米国での買収、米国にある既存製造拠点の閉鎖・休止、米国外からの調達などに関して、米国政府の同意が必要になる。
日本製鉄は、2兆円の買収額に加えて28年までにUSスチールに110億ドル(約1兆6000億円)を投資する。ペンシルベニア州のモンバレー製鉄所(高炉一貫製鉄所)の設備を拡張し、研究開発拠点も新設する。買収および関連コストは現時点で3兆6000億円に達する計画だ。