USリスク、インド拡大、国内リストラ…課題山積
買収による日本製鉄の財務内容の悪化リスクも軽視できない。21年3月に発表した経営計画では、25年度の目標としてデットレシオ(負債/資本比率)を0.7以下に抑えるとしていた。
そこで、国内では高炉を休止や閉鎖して固定費を削減し損益分岐点を引き下げ、キャッシュフロー創出の効率性を引き上げた。キャッシュを確保することにより、有利子負債の圧縮は進んだ。USスチール買収成立以前のDEレシオは0.35倍程度だった。
今回、日本製鉄は、買収と米国での投資に必要な資金の一部を、劣後特約付きローンで調達するという。現時点で調達額は5000億円のようだ。資産圧縮も組み合わせることで、26年3月末のDEレシオは0.7倍台にとどまる模様だが、財務内容のある程度の悪化は避けられないだろう。
仮に、米国の経済環境が悪化し鉄鋼需要が減少すると、USスチールの業績は一段と悪化することも想定される。つまり今後、日本製鉄の財務内容が予想外に変化することも考えられる。
USスチールの業績が一段と悪化しても、日本製鉄は雇用を維持することになる。米国政府が、追加の高炉建設を求めて雇用拡大を要請することもあるかもしれない。日本製鉄の対米投資負担は、当面、大きく減少することは考えにくい。
そうしたリスクを警戒して、同社に対するリスク・プレミアムを高めに見積もる投資家が増える可能性がある。すでに一部の格付け業者は、日本製鉄の格付け見通しを弱めの方向で修正しつつあるようだ。
日本製鉄の収益に関しても、先行きは慎重に見た方がよいだろう。中国では鉄鋼の生産能力の過剰がさらに膨張傾向にある。中東情勢の混迷により米国でガソリン価格が上昇し、物価上昇の懸念が再燃すると、金利に上昇圧力がかかるだろう。それは、個人消費や設備投資の減少要因になり、鉄鋼需要の下振れ要因になり得る。
そうしたコストや潜在的な財務面のリスクを考慮すると、日本製鉄がUSスチールを含め全社の収益力を高めることは簡単なことではない。今後は、日本国内の高炉運営の見直しを進めコストを圧縮しつつ、インドなど成長期待の高い市場でシェア拡大を目指せるかもポイントになる。橋本会長をはじめ経営陣の実力が試されることになる。