また、報道によるとこのスピーチは、米国の歴史や文化に精通したスピーチライターが書き上げたそうです。例えば次の文章は、聴衆から親近感を持ってもらうと同時に米国の歴史に敬意を示す、非常によく練られた文章だと思います。

 As for my family name, it is not “Abe”.Some Americans do call me that every now and then, but I don’t take offense.That's because, ladies and gentlemen, the Japanese, ever since they started modernization, have seen the very foundation for democracy in that famous line in the Gettysburg Address.

(私の苗字は「エイブ」ではありませんが、米国人にそう呼ばれると、悪い気はしません。民主政治の基礎を、日本人は近代化を始めてこのかた、ゲティスバーグ演説の有名な一節に求めてきたからです)

 この文章は、奴隷解放で有名なエイブラハム・リンカーンのニックネームが「エイブ」であり、“Abe”は「エイブ」とも読めることに触れながら、日米が歩みを共にしてきたことをアピールしています。

政治家の英語発信、失敗と成功の違いは?

 さて、話を冒頭から振り返って、まとめましょう。まず、玉木氏の英語の実力について。結果的に質疑応答は通訳なしでこなせるほどではなかったことが証明されてしまいました。加えて、宮澤氏のように日常的に英語力の鍛錬をしているとも報じられてはいません。

 また、安倍氏のスピーチから見えてくるのは、英語力そのものよりも、「発信方法の設計」が重要であることです。安倍氏は専門ライターによる内容を練った原稿を用意した上で、本番で「ただ読んでいるだけ」と揶揄(やゆ)されないように声のトーンや目線、身振り手振りも事前にしっかり練習していました。

 このように適切な準備とサポートがあれば、日本の政治家も英語発信で国際的な評価を得られることは十分可能です。玉木氏は相当程度の英語力を持ち合わせているはずですから、次回は同じ失敗をせずに活躍できるといいですね。