これもまた極めて高いハードルがある。法律上、建て替えには区分所有者の8割の賛成が必要だが、工事中の仮住まいへの不安などからこの合意形成自体は非常に難しい上、事業採算性の壁も立ちはだかる。

 建て替えにおいて代表的な手法とされるのが、デベロッパーが事業参画する等価交換方式だ。これは容積率を最大限活用することで、デベロッパーはより規模の大きな建物を建てて、増床した部分を販売することで事業費を賄う手法だが、その成立条件は厳しい。多くのマンションは容積率に余裕がなく、事業の採算が見込めるほどの規模で建て替えができるケースが少ないからだ。

長期修繕計画の新発想
出口から逆算する視点

 この八方ふさがりの状況に変化をもたらすのが、2026年4月1日から施行される改正区分所有法だ。

 今回の法改正がもたらす最大のポイントは、これまで「全員の同意」という高い壁に阻まれてきた複数の手続きが、「多数決」によって決議可能になること。これにより、マンションの終活には、これまで事実上閉ざされていた新たな道筋が開かれることになる。具体的には、大きく分けて以下の2つの選択肢が現実味を帯びてくる。

1.建物と敷地の一括売却
 建物と敷地を一体で、あるいは建物を解体して更地で売却する道。維持管理の負担から解放され、売却で得た資産を元に、所有者がそれぞれの新たな生活へ移行することも可能に。

2.一棟コンバージョン(用途変更)
 住宅としての利用を終え、その立地や社会的なニーズに合わせてホテルや商業施設などへ用途を変更する方法。建物を資産としてさらに活用し、より大きな価値を生み出すことを目指す選択肢。

 維持管理を続けるしか道がなかった多くのマンションにとって、法改正は将来の出口を主体的に設計するための画期的な変化といえるだろう。出口を選べるという事実は、これまで「維持」の一本道しか想定してこなかった長期修繕計画のあり方を、根底から問い直すものなのだ。

 法改正によって新たな選択肢が生まれた今、長期修繕計画の考え方も根本から変えていかなくてはならない。というのも「いかに長く維持するか」が絶対的な目的だった長期修繕計画が、今後は「どう終えるか」という出口(=ゴール)から逆算して、道のりを設計する発想が必要になってくるからだ。