考えてみてほしい。例えば「30年後に売却する」と管理組合の総意で決めた場合、その5年前に多額の費用を投じて大規模修繕を行うだろうか。その選択は合理的とは言えないだろう。また、建物を解体して更地で売却することをゴールにするならば、修繕積立金とは別に「解体積立金」を積み立てる議論も不可欠となる。このように、設定したゴールによって、必要な修繕と資金計画はまったくの別物になるのである。
私たちが多くのマンションを見てきた経験上、この「出口」を定める議論を始めるべきなのは、築20~30年のタイミングだ。新築時に描いた30年計画の見直しと、住民のライフステージの変化が重なるこの時期に「この先も永続的な維持管理を続けるのか」という現実的な問いに向き合うことが、極めて重要になってくる。
マンションのゴール設定で
重要な3つの判断材料
では、自分たちのマンションのゴールはどこに設定すべきか。その方向性を決める上で重要になるのが、以下の3つの判断材料だ。
1.所有者の意向
所有者の構成や考え方は、ゴール設定の根幹をなす。終(つい)の棲家(すみか)として永住を望む所有者が多いのか、一定の利益確保を目的とする投資家が多いのか。住民の年齢層やライフプランなど、コミュニティの意思を把握することが欠かせない。
2.立地のポテンシャル
次に、マンションが持つ立地の可能性である。立地は、選択肢の幅を大きく左右する。特に、商業施設やホテルへの一棟コンバージョンは、需要が見込める都心の駅近立地でなければ現実的とは言えないだろう。
3.財務健全性
どのような選択をするにしても、その土台となるのが管理組合の財務状況である。計画的に修繕が行われ、積立金も潤沢であれば、維持も終活も選択肢となり得る。逆に、計画が形骸化し、積立金が赤字目前といった状況では、取れる選択肢は限られてしまう。健全な財政を維持しているマンションほど、将来の選択肢は豊かになるのである。
理事会が毎年変わっても
ブレない方針をどう作るか
しかし、いくら素晴らしい出口戦略を描いても、それを実行する体制がなければ絵に描いた餅に終わってしまう。多くのマンションで理事会は1~2年の輪番制で運営されており、方針が継続しにくいというリスクがつきまとう。これでは、せっかくの議論も積み上がらない。実際に建て替えを成功させたケースでも、やはり一貫した方針を継続させている管理組合の存在が、成功の鍵となっている。
そこで有効なのが、理事会とは別に、長期的な視点で検討を続ける「修繕・終活委員会」のような専門組織を設けることだ。理事会が交代しても、同じメンバーが継続して議論を深めることで、方針のブレを防ぐことができる。