そういうときは、「仕事に行きたい」という本人の希望にしっかり耳を傾けて、その設定にとことん付き合って話を展開してみると、納得してもらえることも多いです。
「今日、お父さんは非番みたいよ」「お父さんが行ったら、みんながビックリしてしまうよ」「非番なのに行くと、みんなもそうしなきゃってプレッシャーを感じてしまうかもしれないよ」などと、さまざまな角度から話してみましょう。
そのうちに、「そうか。今日は行かなくていい日なのか……」と納得して、再び布団に戻ってくれたということもあります。
私が勤める介護施設でも、過去に看護師として働いていた入居者が、夜中になると「見回りをしないと」と各部屋を見て回るという行動をし始めたことがありました。
はたから見れば、認知症の症状の1つである「徘徊」なのですが、本人からすれば「見回り」という正当な理由がある。そのことを酌んで、スタッフも「もう見回りしておきましたから、大丈夫ですよ」という声かけをするようにしたところ、自室に戻って寝てくれるようになりました。
本人の職業、習慣、趣味には
解決のヒントが隠されている
このように、働き盛りの頃の記憶や過去の習慣から影響を受けた行動が、認知症中期の人にはしばしば見られるようになります。
それが昼夜逆転の生活リズムの乱れとセットになると、真夜中に“不可解”とも思えるような行動として表れてしまうのです。
いずれの場合も、本人の過去の職業や習慣、好きだったこと、得意なこと、趣味といった本人の生活歴の中から、なぜその行動をするのか「理由」を探ってみることが大切。
理由が分かれば、きちんと向き合って会話を重ねることで、結果的に夜中の行動を落ち着かせるきっかけが見つかることも多いものです。
排泄の失敗が増えてきたとき
かけてはいけない言葉
認知症の症状が進み、先ほど紹介したような入浴困難が見られるようになる頃から、排泄に関する失敗も目立ってくるようになります。
お風呂の中で温度調節などの操作が苦手になるのと同様に、トイレでも今までのように必要な手順や操作がスムーズにできなくなっていくのです。