鉄道事業者に経営効率化を
促すための「2つの方式」
もう少し細かく説明すると、総括原価は資本費と費用に分類できる。資本費とは固定資産の取得や改良に必要な費用であり、損益計算書においては減価償却費として計上される。また、資金を調達するために発生する株主への配当や借入金の利息も含まれる。巨大な装置産業である鉄道事業においては重要な位置付けだ。
ただ、鉄道事業者の言い値で費用を積み上げると経営効率化へのインセンティブが働かない。そこで、大手事業者については、事業報酬は「レートベース方式」、営業費のうち人件費・経費については「ヤードスティック方式」を採用する。
レートベース方式とは、鉄道固定資産、建設仮勘定(建設中の費用を一時的に計上するための勘定科目)などの事業に対して投下された投資額を「事業対象資産」とし、これに「事業報酬率」を乗じて事業報酬を決定する仕組みだ。
自己資本報酬率は利回りや自己資本利益率、全産業の平均自己資本利益率などから算定、他人資本報酬率は借入金・社債の利回りの金利などから算定し、これを30対70で加重平均したものを報酬率とする。込み入った話になったが、ここでは事業報酬は資産をもとに算定されると理解してもらえれば十分だ。
ヤードスティック方式は、鉄道インフラの維持管理、車両の運行などに関する経費について、競争を通じた効率化を促すため、JR、大手私鉄、地下鉄の3グループ別に基準コストを算定。効率的な経営により実績コストが基準コストを下回る場合、差分の半分が「ボーナス」として利益に上積みされる。
レートベース方式は1960年代、ヤードスティック方式は1970年代に導入され、対象の拡大や制度改定など改良を積み重ねてきた歴史のある仕組みだ。
では、これまで運賃改定はどのように行われてきたのだろうか。
前述のように運賃改定は総支出が増加するか、総収入が減少した場合に必要になる。総支出の増加は大規模投資による資本費の増大、または、物価・人件費高騰による営業費の増大によるものが多い。一方、総収入の減少は人口増加局面ではほぼ起こりえず、今後の人口減少社会到来で顕在化すると思われていたが、コロナ禍で10年、20年前倒しで現実のものとなってしまった。