アップルの共同創業者であるスティーブ・ジョブズ氏は、「人間が1日にできる決断の数は限られている」という理由により、毎日同じ黒のタートルネックとジーンズ、スニーカーを着用していました。服の選択という決断にかかる時間とエネルギーを減らし、仕事に集中するためです。

 決まった動作や行為を繰り返すことには、「今日は何をしよう」と考える時間を省くことで、物事の決断によるストレスを減らす効果があるほか、「今日もこれをやったから大丈夫」といった心の安定にも繋がります。

 人間が1日に行なう決断の数は驚くほど多く、ケンブリッジ大学のバーバラ・サハキアン教授の研究によれば、人間は1日に最大で3万5000回もの決断をしていることが判明しています。決断が多過ぎることも脳への大きな負担となるため、疲れ切って思考能力が低下してしまった場合に備え、事前にやることを決めておくと安心です。

行動スピードの変化で
得られる気づき

 では、脳疲労以外の不調から抜け出すにはどうすればよいのでしょうか?その答えは、倍速行動の逆、つまり行動スピードを意識的にゆっくりにすることです。「ゆっくり行動するなんて時間の無駄では?」「時間をかけるとより疲れるのでは?」と思うかもしれませんが、行動スピードを遅くすることには、意外と多くのメリットが存在します。

 例として、休日にのんびりと散歩を楽しんでいるときのことを想像してみてください。いつもと同じ景色であるにもかかわらず、今までまったく意識していなかった建物が目に入ってきたり、公園の花壇に植えられている植物を見て、季節の移り変わりを感じたりしたことはありませんか?

 一方で、通勤時など考え事をしながら早足で歩いている際には、周囲の様子はあまり目に入ってこないのではないでしょうか?このように、行動スピードを落とすと、感覚が研ぎ澄まされて新たな気づきを得やすくなりました。

 私自身も、忙しいとつい倍速行動をしてしまうため、なるべく行動スピードを落として患者さんの診察をするよう心がけています。すると、心に余裕ができるだけでなく、患者さんの表情や様子などのちょっとした変化に気がつきやすくなりました。