トランプ政権に翻弄される日本が
マスク氏と連携すべき理由
今後、マスク氏がどのような候補者を擁立し、どの政策を前面に出すのかが注目される。
イーロン・マスクという存在は、もはや単なる企業家の枠では収まらないものになっている。
考えてみると、政権との対立、MAGA運動内の思想対立、テクノロジーと国家主義の緊張関係は、トランプ大統領とマスク氏だけの話ではなく、今後も永く続いていくものである。
問題は「グローバル資本とアメリカ中間層の乖離(かいり)」という根本的な問題に取り組む限り、そこには、これまでアメリカ経済を支えてきたイノベーションや金融主義にブレーキがかかることである。
マスク氏の真の狙いは、もちろん政権奪取などではない。議会における審議と採決で「数票の力」を持ち、既存政党の政策を動かすことで、「反イノベーション」や「反金融主義」の行き過ぎを阻止して、自らの産業的利益と理念を守ることである。
2026年の中間選挙でアメリカ党がどのような戦果を挙げるかは注目に値する。現状では議席をとるのは難しいだろうが、もし1議席でもとれたら、今後のアメリカ政治の地図は大きく塗り替えられるかもしれない。
日本が自国の国益を真に考えるのならば、トランプ政権に一方的に翻弄(ほんろう)されるだけでなく、マスク氏とも連携し、日米テクノロジー協定のような枠組みを立ち上げる必要がある。
日本にとって、「デジタル赤字」の是正と次世代産業の育成は、喫緊かつ長期的に最重要な課題である。マスク氏と協調体制を築くことは、日本が反転攻勢に出るための1つの有力な選択肢だろう。
トランプ政権との関係を築くことは一義的に重要であるが、トランプ大統領には任期がある。日本の課題はその後も続いていくのであるから、マスク氏のような人物の力を借りることは、その突破口となりうる。
(評論家、翻訳家、千代田区議会議員 白川 司)