「マスク党」が目指すのは
政党ではなく圧力装置か
マスク氏の意図が「アメリカ党を大政党に育てること」ではなく、「特定法案の採決において決定力を持つ少数勢力として機能すること」にあるならば、下院での数議席の獲得でも、民主党と共和党双方に政策修正や妥協を迫ることが可能になる。
また、トランプ政権の中でもマスク氏の影響は一部に残っており、ビットコイン政策や台湾外交の抑制的姿勢などには、いまだにマスク氏の意向が色濃く反映されている。
トランプ氏はこれまで、教条的なバノン氏と現実的なマスク氏の意見に揺れ動くことが多かった。また、バノン政策がうまくいかなそうなときは、すぐにマスク政策に切り替えることも少なくなかった。
つまり、トランプ大統領はマスク氏を追放したものの、マスク氏の考え方自体を全否定したわけではない。
ただし、マスク氏がアメリカ国内で大人気かというと、そうは言いがたいところもある。
とくに今春のウィスコンシン州最高裁判事選では、官僚機構改革で急進的に合理化を進めたマスク氏への反発が徒となっている。
これは中間選挙の区割りにも関わる重要な選挙だったため、マスク氏は保守派候補のブラッド・シメル氏を支援し、自らも300万ドル(約4億4000万円)以上を投じた。だが、結局、リベラル派のスーザン・クロフォード氏に10ポイント差で大敗を喫している。
SNSなどでは大人気のマスク氏だが、世界トップクラスの大富豪が金に任せて選挙運動を繰り広げていく様子は、庶民には必ずしも好印象を与えなかったようだ。
民主党側も「マスク氏不人気」を利用して、「People v. Musk(人民 vs. マスク)」という対立軸を強調して、思いがけないほどの差で勝利を収めることになった。
このことは、マスク氏の急進的な改革路線に対する国民の反発を示すシグナルとなり、官僚機構におけるトランプ改革に急ブレーキがかかった。
ただ、マスク氏の新党はあくまでネット世論に訴えるものであり、Xを保持するマスク氏はその点で圧倒的な強みがある。もし下院で数議席を獲得するようなことになれば、共和党と民主党で拮抗(きっこう)する現状では、マスク氏の影響力は無視できないものになるはずだ。
そういう意味では、マスク氏の目指す党は政党というより圧力団体に近いものなのかもしれない。