マスク氏が新党構想で描く
過去に例のない戦略とは

 マスク氏が大胆な行動に出たことはともかく、この新党構想が現実味を持つかどうかには議論の余地がある。

 アメリカの選挙制度は「勝者総取り(winner-takes-all)」であり、第三政党にはきわめて厳しい環境が待ち構えている。これは日本の小選挙区において「死に票」が大きく出ることを考えてもらえればわかるだろう。

 テキサスの実業家で大富豪だったロス・ペロー氏が、1992年に「改革党」を率いて大統領選に出馬し、得票率19%を記録した。だが、選挙人は一人も獲得できなかった。

 また、それなりの知名度を持っているグリーン党やリバタリアン党も今のところ全米的な影響力を持つには至っていない。

 したがって、いかにマスク氏であろうと、アメリカ党が上下院で複数議席をとるというのは至難の業である。

 もちろんマスク氏もこの制度上の壁は理解しており、「全国制覇ではなく、数議席でも政策決定に関与できればよい」という戦略を描いている。

 マスク氏が戦うフィールドは「州」ではなく「ネット」である。オンラインの支持基盤を活用し、選挙区を絞って突破口を開こうとしている。

 この戦略は過去には例がなく、日本の選挙でもネットが大きな力となって新たな国政政党が次々と生まれている現状を考えると、「また失敗に終わる」と簡単に断じることはできないだろう。