【心理学の実験】
ポジティブなフィードバック vs ネガティブなフィードバック
参加者にある課題をやってもらいました。
その際、参加者には、「成績が上位30%以内に入ることを目指すように」と伝えました。
課題終了後、半分の参加者にはポジティブなフィードバックを、残りの半分の参加者にはネガティブなフィードバックを与えました。
それぞれ、次のように告げました。
■ポジティブなフィードバック:
「あなたの成績は、上位30%以内に入っていた」
■ネガティブなフィードバック:
「あなたの成績は、上位30%以内に入らなかった」
その後、同様の課題をやってもらったのですが、その課題の成績は、次の図6─5に示した通りになりました。
防御型の人は、ネガティブなフィードバックで成績が向上

このグラフは、縦軸が課題のパフォーマンス得点になっていて、パフォーマンス得点の平均値が0となるように換算されています。上(下)にいけばいくほど、パフォーマンスが高い(低い)ことを意味します。
図6─5を見ると、獲得型のタイプにはポジティブなフィードバックが、防御型のタイプにはネガティブなフィードバックが、それぞれ課題のパフォーマンスを高めるやり方であることがわかります。
同様の結果は、私たちが行った実験でも示されています。
一体なぜ? ネガティブフィードバックが効く心理学的な理由
ポジティブなフィードバックを与えられることによって、理想とする状態を追い求めることに目が向きます。こうした目標追求の方法は、利益を得ることに焦点が当てられている獲得型に合っています。
逆に、獲得型の人はネガティブなフィードバックを受け取ると、意欲を低下させます。この人たちは、失敗するかもしれないと感じると、やる気を失うのです。
ネガティブなフィードバックを受けると、失敗による損失や、望ましくない結果を回避することに目が向きます。こうした目標追求の方法は、損失を避けることに焦点が当てられている防御型に合っています。
防御型の人は、成功の見込みが下がることによって、逆にモチベーションが高まるのです。
「ネガティブなフィードバックが与えられると、パフォーマンスが上がる人もいる」というのは意外なことに思うかもしれません。
防御型のモチベーションは「警戒」、すなわち、危険から身を遠ざけたいという欲求です。
そのため、ネガティブなフィードバックが与えられると、警戒心が高まり、モチベーションが上がるのです(そして、その結果として、パフォーマンスが高まるのです)。
一般的には、ポジティブ思考が奨励されていますが、それは常に正しいわけではありません(もちろん、ポジティブ思考をすることでモチベーションが高まる人もいます)。
防御型の人がとるネガティブ思考は、単なるネガティブ思考ではありません。
物事がよくない方向に進むかもしれないことを想定し、成功の期待を低くすることで、起こり得る失敗やトラブルに備え、それを回避することができるのです。
人は、獲得型・防御型それぞれに合ったフィードバックを受けることで、モチベーションが高まり、その結果としてパフォーマンスも向上します。
そのため、相手のタイプに応じて、ポジティブまたはネガティブなフィードバックを適切に伝えることが大切です。そして、自分自身もフィードバックを適切に受け止めることが重要です。
※本稿は、『すぐやる人の頭の中──心理学で先延ばしをなくす』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。