商品の高付加価値戦略を推し進めてきた花王が、値下げ路線に転じたのではないかと、業界内で憶測を呼んでいる。
昨年の年末商戦で、一部の店舗において花王の掃除用品に別のサンプルが付いた“おトク商品”が店頭に登場したのである。花王は「あくまで年末キャンペーンの一つであり、値下げではない」と否定するが、それが注目を集めるほど、日用品業界はかつての“デフレ”と“値下げ合戦の再来”を恐れている。
実際、花王の調査によれば、昨年10月と11月の主要15品目の売れ行きは、2ヵ月連続で数量ベースで前年比99%、金額ベースでは97%と落ち込んだ。12月は盛り返した模様だが、それでも「金額ベースで98%ぐらい」というのが関係者の見方だ。2006年から08年上期まで金額ベースで100%台をキープしてきただけに、急激な変化である。
秋以降、スーパーなどが消費刺激のために「円高還元」と銘打ち、店頭で値下げを繰り返している。原料高が一巡したこともあり、メーカーに対する小売りからの値下げ圧力が強まるばかりだ。
花王は「これまで価格転嫁できたのは4割程度。パーム油の市況が下がったからといって簡単に値下げするわけにはいかない」(幹部)としている。
また、ライオンの藤重貞慶社長も、「原料代が浮いたぶんは広告宣伝に投入する」と明言しているが、小売りが値ごろ感のあるPB(プライベートブランド)を展開しているのも脅威だ。
「日用品に対する値下げ要求も食品並みに厳しくなってきた」とさる大手卸幹部は明かす。すでに、出荷価格そのものが下がっている製品も続出している。
シェア確保にも値下げは欠かせない。紙オムツ最大手のユニ・チャームが一度は値上げした紙オムツを昨年12月に増量で実質値下げしたところ、シェアが2%伸びたという例もある。
日用品メーカーにとっては再びデフレの悪夢が現実化しつつある。消費者に受け入れられる価値と価格とのバランスが厳しく問われてくる。
(『週刊ダイヤモンド』編集部 大坪稚子)