最低賃金引き上げに耐えきれない企業が廃業・倒産するということは、「最低賃金以下で働かされていた労働者」がその低賃金労働を強いていた職場から解放されるということでもある。この失業者たちに働く意思があれば、仕事にありついた場合、その新たな職場は100%、前の職場よりも賃金が高くなる。こういう「雇用の流動化」が進むことで、社会全体の賃金も上がっていくのだ。
そのわかりやすい例がお隣の韓国だ。覚えている方も多いだろうが、かの国は2018年に最低賃金を16%、2019年1月にも10%上昇するという感じで、引き上げ幅は2年間で29.1%に上った。その結果、小規模事業者が打撃を受けて人件費を削減した結果、失業者が溢れた、と報道されたのである。
これを受け、減税派の経済評論家などは「ほら見たことか!最低賃金引き上げなんて愚かなことをしたせいで韓国経済はもうおしまいだ」などと“勝利宣言”したものだ。
では、あれから5年を経て韓国経済が本当に終わってしまったのかというと、そんなことはない。

まず、平均給与が日本をサクッと追い抜かした。2023年のデータを見ると、日本の平均賃金はOECD加盟38カ国の中で26位なのだが、韓国は24位で日本と比べて年間約16万円(1ドル=140円で算出)ほど高くなっているのだ。しかも、国民の豊かさを示す「1人あたり名目GDP」でも日本を追い抜かしている。
「失業者があふれかえっている」というのもビミョーな話だ。2020年の失業率はコロナ禍の影響もあって4.0%、15~29歳の失業率も10.7%に達した。しかし、今年1月、韓国統計庁が発表した2024年の雇用動向によれば、失業率は2.8%で、若年層(15~29歳)の失業率は5.9%とかなり改善している(JETRO 1月21日)。
国によって産業構造や労働文化が違うので、経済の課題はそれぞれ異なる。しかし、「物価上昇に合わせて最低賃金を引き上げることで、企業の成長・生産性向上を促す」というのはほとんどの国で共通しているのだ。
少なくとも日本のように「企業が倒産するので、労働者は低賃金でも歯を食いしばって我慢せよ」みたいなことを言って、最低賃金引き上げを憎む社会はかなり「異常」と言っていい。