中国経済の減速で、好況下では明るみに出ることがなかった不法ビジネスが、徐々に表面化している。
それは多額の利ざやが望める投機的ビジネスにおいて顕著であり、その1つの典型例が不動産売買である。不完全な法律、法規、曖昧な権利関係を巧みに利用し、巨額のマネーがこの市場に入り込んだ。
デベロッパーの資金調達のみならず、中小企業のセカンドビジネス、個人の資金を集めてのマネーゲーム、こうした不動産投資に資金を提供してきたのは、いわゆる「地下金融」といわれる「影の銀行」の存在である。
不動産だけではない。「影の銀行」は鉄鋼の世界をも支配していた。中国では昨年来、鉄鋼業界の連鎖破綻が取り沙汰されている。
20万社を数える鉄鋼専門商社
福建人が独占し特殊な業界を形成
上海の宝山鋼鉄(かつての宝山製鉄所)につながる街道沿いに、鉄鋼製品を扱う商社がある。筆者は図書館に通うため、週に数回、この店の前を通る。うす汚れたガラス窓からは室内の様子が丸見えだが、薄暗い部屋の奥に人の気配はない。エントランスも固く施錠されたままだ。
「景気悪そうだな」と思っていた矢先、引っ越しが始まった。今年3月のある日、店内は珍しくざわついていて、部屋の中から事務機器やサンプルを持ち出す姿が見られた。そしてこの鋼材商社は、すっかりもぬけの殻となった。
新聞に「不良債権」という見出しが目立つようになったのもこの春頃からだった。4月、中国銀行業監督管理委員会(銀監会、日本の金融庁に相当)が「2013年経済金融形勢通報分析会」なる会議を開催したという記事は「ここ数年の銀行融資の増加は、数年後には違約という形で表面化するだろう。ある一部の地区と業界において、すでに不良債権は顕在化している。危ないのは鉄鋼商社、造船、太陽電池業界だ」と静かに警告していた。
あの街道沿いの商社は、移転ではなく倒産だったのだ。その原因は、資金繰りの悪化であり、昨今、上海の空気をよりいっそう重くしているのは、この鉄鋼専門商社ともいえる。