A氏 辞めていった70~80人は、リストラという局面で辞めて行かざるを得なかったが、もともと広告制作のような仕事に向いていなかった。遅かれ早かれ、辞めていく人だったのではないか。逆に言えば、それくらい採用に問題があった、ということでもあると思う。
経験に乏しい若手マネジャーが
部下を「うつ」にする職場構造
筆者 他の部署では、たとえばリストラの面談でうつ病などになる社員はいなかったのですか?
A氏 それに近い話は聞いた。ただしリストラではなく、それよりも前に病になっていたようだ。私は、うつ病と上司のマネジメントは関係が深いと見ている。マネジャーの多くは30代前半までくらいで経験が浅く、部下に具体性のない指示をする傾向があった。(⑧)自分でも、実はその仕事の本質がわかっていない。
筆者 ベンチャー企業などでよく見かける光景ですね。
A氏 だけど、役員から与えられる業績の目標を達成しないといけない。マネジャーたちも、社長らの儒教的な考えに影響を受けていて、部下に大量の仕事をやらせる。そして、自分もプレイング・マネジャーとして大量に抱え込む。
自らの仕事を終えた深夜の12時頃に、部下を呼び出す。その場で「なぜ、あなたはできていないの?」「どうしてこの程度のレベルのことができないの?」と詰め寄る。(⑨)
筆者 私も20代の頃に、上司からそのようなことをされた経験があります。反論できない自分が、不甲斐なかったですよ。
A氏 マネジャー自身、自分の仕事を完璧にできたと思い込んでいるが、実はできていない(苦笑)。人に何かを言える身ではないのだが、部下を厳しく叱る。しかし指示が抽象的であり、部下はどうしていいのかわからない。それで長時間労働も影響し、部下が精神的につぶれていく。
「なぜ、あなたはできないのか?」と詰め寄るのは、マネジャーがそのできない理由を本当にわかっていないから。自らがその仕事を繰り返し、一定水準以上にできるならば、こういう問いにはなり得ない。部下ができない理由がわかるはずだ。