会社更生法の適用を申請中の日本航空(JAL)は9日、米デルタ航空が盟主の座にある世界最大の航空会社連合スカイチームへの参加を断念し、引き続き、アメリカン航空との提携関係を維持して「ワンワールド」に残留すると発表した。

 前原誠司国土交通大臣や国土交通官僚の意向に反し、早期の収益確保に役立たない投資を手控える決断を、着任間もない稲盛和夫会長が下したことは高い評価に値する。同会長が見事な決断を下した背景には、いったいどういう事情があったのだろうか。

 君子は豹変す――。

 稲盛会長が今回下した決断を表現するにあたって、これほど的確な言葉はない。はっきりと覚えている読者も多いだろうが、わずか8日前、稲盛会長は新会長就任記者会見の冒頭で、「企業再生支援機構と日航の方々が作成した計画について説明を受けていますが、私なりに分析して、また経営に携わった者として、(この計画を)確実に実行しさえすれば、再建は十分に可能だと思っております」と大見得を切ったばかりだった。

 ところが今回、稲盛会長は、この再建計画の一翼を担うものとして、国土交通省が後押ししていたデルタとの提携という戦略をあっさりと廃案にしてみせたのだ。

 専門家に言わせれば、デルタとの提携は、経営の常識を知らない官僚や政治家ならではの戦略に他ならない。というのは、官僚と政治家は、この世界最大の航空連合への参加を大義名分として、引き続き、JALに採算に乗らない国際線の運航を継続させようと目論んでいたからである。

 そして、就任以来、数々の失言で、JALを政府主導の再建(実態は、会社更生法の適用申請という企業破たんに他ならない)に追い込んだ前原大臣が、何度も関係閣僚会議の場で「政治生命を賭けてでも、JALの国際線からの撤退は認めない」と啖呵を切っていたことを、官僚たちは自己正当化に利用していた。

 だが、新たに、従来とは別の国際航空連合に参加するとなれば、従来投資してきた資産をゴミ箱に捨て、ゼロから膨大な資金を投入してコンピューターシステムを再構築して新連合のシステムと接続する必要がある。

 問題は費用だけでなはない。新たな連合のブランドの一員としての評価が社会的に定着して、それなりに集客力を発揮できるようになるには、最低でも1年、普通なら2~3年という時間も必要だ。企業再生支援機構は、満天下に公表した再建計画において、JALの再建を「今後3年で完了する」と大風呂敷を広げている。余分なカネや、無駄に費やせる時間など、JALにあろうはずがない。