単なる「課題解決」から
問いも答えも複数ある「デザイン」が必要な時代へ
井上 最初にお話しした世代の進化を別の視点で言い換えると、社会起業のアプローチは大きく三段階に分けられると思います。レベル1は、既存のやり方で「社会の課題解決に取り組む」、レベル2が「今までなかった新しいアイディアを加える」こと。そして、これからいよいよ本格的に始まろうとしているのがレベル3で、これは「変え方そのものを変える」という段階です。
紺野 要するに、そこがデザインです。
一般的に言われる「課題解決」と「デザイン」の何が大きく違うかと言えば、問題と答えのあり方が直線的でないことです。課題解決といった場合、おそらく、1つの問題に対して最良の答えを1つ求めようとするでしょう。しかし、現実はそうではない。問題の立て方だって、じつは幾通りもある。だから、現実にある問題に対峙しようと思えば、じつは問題の立て方そのものから問うていかないといけないし、試行錯誤が不可欠です。それがデザインの方法論です。
デザインという言葉はラテン語の刻印というのが語源ですが、「分離」「否定」を意味する接頭語deと「記号」を意味するsignが組み合わさっていて、そこには「既存の破壊と創造」という意味が隠れています。今あるものをいったんバラバラにして「何が本質的な問題なんだろう」と考えることからスタートする。そうして全体像を把握した上で、井上さんのおっしゃるセオリー・オブ・チェンジを発見し、バラバラなパーツを最適なシステムへと組み変えていく。それを社会的規模で行うのが、ソーシャル・デザインです。
今、このソーシャル・デザインによって弱肉強食一辺倒だった資本主義の姿が大きく変わろうとしている時に、いつまでも既存の価値観に従ってビジネスをしていたら、利益はおろか、企業にとって最も重要な消費者やユーザーの信頼を勝ち得ることができなくなります。これは、21世紀を生き延びようとする企業にとって、じつは最も恐ろしいこと。次に(中編では)、その信頼に基づく組織で働くと、個々人にどのような変化が起きるのかについて、詳しく話していきたいと思います。
(中編は9月18日公開予定です。)
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多摩大学大学院教授、ならびにKIRO(知識イノベーション研究所)代表。京都工芸繊維大学新世代オフィス研究センター(NEO)特任教授、東京大学i.schoolエグゼクティブ・フェロー。その他大手設計事務所のアドバイザーなどをつとめる。早稲田大学理工学部建築学科卒業。博士(経営情報学)。組織や社会の知識生態学(ナレッジエコロジー)をテーマに、リーダーシップ教育、組織変革、研究所などのワークプレイス・デザイン、都市開発プロジェクトなどの実務にかかわる。
著書に『ビジネスのためのデザイン思考』(東洋経済新報社)、『知識デザイン企業』(日本経済新聞出版社)など、また野中郁次郎氏(一橋大学名誉教授)との共著に『知力経営』(日本経済新聞社、フィナンシャルタイムズ+ブーズアレンハミルトン グローバルビジネスブック、ベストビジネスブック大賞)、『知識創造の方法論』『知識創造経営のプリンシプル』(東洋経済新報社)、『知識経営のすすめ』(ちくま新書)、『美徳の経営』(NTT出版)がある。
目的工学研究所(Purpose Engineering Laboratory)
経営やビジネスにおける「目的」の再発見、「目的に基づく経営」(management on purpose)、「目的(群)の経営」(management of purposes)について、オープンに考えるバーチャルな非営利研究機関。
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