9月の第3月曜日は「敬老の日」である。別に大げさなことは必要ない。今年はひとつ、老親に「手紙」を書いてみるのはどうだろうか。

 先日、京都大学東南アジア研究所の松林公蔵教授らのグループが、高齢者のうつ病患者に対する介入試験をスタートした。試験概要は「高齢うつ病患者に手紙を出すという介入で、抑うつ状態を改善できるか」というユニークなもの。

 研究フィールドは四国のある地域で、65歳以上人口は38.8%(全国平均23.3%)に達する。試験の対象は「食事をひとりで食べる」など社会的支援が限られ、うつ評価尺度が4点以上と軽度~重度のうつ症状が認められる人とした。

 肝心の「手紙」は、手書きのメッセージと京都近郊の時候だより、そして切手貼付済みの返信用封筒で構成される(返信するか否かは個人の自由に任せられる)。毎月1回、8カ月間送付される予定だ。その後、毎年の住民健康診断でうつ評価尺度を追跡し、改善度を評価するという。

 研究者は老齢者のうつ病は、本人の生活の質(QOL)を低下させ、罹患率や死亡率、そして医療費負担を押し上げていることを指摘し、「コストがほとんどかからない方法」で有効性が証明できれば、地域のソーシャル・サポートのマイルストーンになる、としている。

 実はこの「手紙作戦」、1976年の米国で大うつ病患者の自殺予防を目的として初めて試みられた。その際は、手書きの「Post Card」を5年間に合計24通出している。作戦開始後の2年間のうちに自殺率が減少し、全体では13年間にわたって効果が持続したという。その後、イスラエルやオーストラリアでも同じ試みが行われ、自傷行為やオーバードーズ(過量服用)の防止に役立った。

 これまでの研究からは、困った時に相談できる人や頼る人がいない高齢者ほど、抑うつ症状を来しやすいことが知られている。電話はその場限りだが、1通の手紙は幾度も読み返し、つらいときの心の支えとなる。今回の試験結果の報告はしばらく先だろう。しかし、手紙は今すぐにでも書ける。

(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)

週刊ダイヤモンド