自分が「ゼロ」になった瞬間を
自覚できるか

堀江 僕が『ゼロ』という本で伝えたかったメッセージも、まったく同じなんです。常識に縛られてる人たちに、もっと自由に自分のやりたいことをやってほしい。そのために僕がどうやって、どんなことを考えながら生きてきたのか、全力で書きました。

三田紀房(みた・のりふさ)
1958年生まれ、岩手県北上市出身。明治大学政治経済学部を卒業して一般企業に就職したが、その後漫画家へ転身。30歳で第17回ちばてつや賞一般部門に入選。2003年に東大受験をテーマにした『ドラゴン桜』の連載を開始し、社会現象を巻き起こす。同作品で2005年第29回講談社漫画賞、平成17年度文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞。代表作に『ドラゴン桜』『エンゼルバンク』『クロカン』『甲子園へ行こう!』など。現在、「ヤングマガジン」にて『砂の栄冠』、「モーニング」にて『インベスターZ』を連載中。

三田 読ませていただきましたけど、とても面白かったですよ。シンプルで元気になれるメッセージがたくさん詰まっているかと思えば、ちょっと泣けちゃうような描写もあったり。

堀江 ありがとうございます。もう、恥ずかしがらずに全部さらけ出しましたから。

三田 僕が『ゼロ』を読んで思ったのは、人って「自分がゼロになった瞬間」を意識するのが難しいということなんです。

堀江 というと?

三田 たとえば大学受験で第一志望に落ちた。滑り止めの大学に入った。これって、本当は「ゼロ」になってるというか、自分をリセットするチャンスなんですよね。でも、ほとんどの人はゼロになった自分を認めずに、ぼんやりした「続きの人生」を生きてしまう。あの本を読みながら「自分がゼロになったのはいつだったんだろう?」と、すごく考えさせられました。

堀江 僕の場合はけっこうゼロを意識する節目が多かったんですよ。

三田 そうですか?

堀江 たとえば私立中学に入学したときも、小学校のころは勉強しなくても成績が1番だったのに、中学だとあっという間に落ちこぼれになっちゃうんですよ。それまで、ある意味では学力だけが自分のアイデンティティを支えていたのに、そこが足元から崩れ去る。しかも男子校で、女の子と接する機会もないし、ただのモテない落ちこぼれですからね。プライドはぼろぼろに引き裂かれるし、さすがにゼロを自覚しますよ。

三田 なるほどなあ。

堀江 だから一発逆転を狙って東大を目指したんです。はじめて『ドラゴン桜』を読んだときには「俺のことが書いてある!」と思いましたから(笑)。

三田 そうそう、いちばん最初にお会いしたのが六本木ヒルズのライブドア会議室でしたよね。対談中に「ニッポン放送が行けそうだ!」と弁護士さんから電話がかかってきたのを覚えています。そのあと、明治大学で一緒にトークイベントをさせていただいて。いちばん忙しい時期だったんじゃないですか?

堀江 そうでしたね。

三田 まさに時の人でしたから。明治大学のホールに、ものすごい数の報道関係者が詰めかけてて、なんだか僕までスター気分に(笑)。