ニューロマーケティングと行動観察で、
無意識に潜む消費者の価値観を探る

松波 われわれも、「大阪ガス行動観察研究所」という名前で、ビジネスとして展開しています。もともとは、大阪ガスのお客さまの生活の場や営業の現場、工事の現場などのフィールドからスタートし、これまでおよそ600案件に至る実績を積んできました。

谷井 おもしろいですよね。大阪ガスというインフラ提供事業者なのに、マーケティング系の分野を進めることができたというのは、会社の懐が深いんですね。

松波晴人(まつなみ・はるひと)
大阪ガス行動観察研究所所長。株式会社エルネット技術顧問。サービス学会監事。
1966年、大阪府生まれ。神戸大学工学部環境計画学科卒業、神戸大学大学院工学研究科修士課程修了後、1992年に大阪ガス株式会社入社。基盤研究所に配属され、生理心理学、人間工学関係の研究活動に従事。アメリカ・コーネル大学大学院にて修士号(Master of Science)取得ののち、和歌山大学にて博士号(工学)を取得。2005年、行動観察ビジネスを開始。2009年に大阪ガス行動観察研究所を設立すると所長に就任し、現在に至る。
著書に、『「行動観察」の基本』(ダイヤモンド社)、『ビジネスマンのための「行動観察」入門』(講談社)、編著書に『ヒット商品を生む 観察工学』(共立出版)がある。

松波 ありがとうございます。大阪ガスにはさまざまな現場があることが大きかったと思います。われわれの取り組みは、現場に入り込んで観察するものです。行動には、さまざまな“場”にいる人たちの無意識の価値観が表れます。行動観察には、“場”で得られた気づきから新たな仮説を立てて、これまでにない発想や解決策を提案する、コンサルティング的な面があります。これに対して、谷井社長の行っていることは、われわれの一つ前のことをやろうとしているのではないでしょうか。

谷井 「一つ前」と言いますと?

松波 例えば、暑い日に外を歩いているとします。最初に「人体に熱が入る」という物理的な現象が起こります。すると、熱を受けた体が「暑い」ということを認識します。そして、「汗をかく」といった生理反応が起こります。それでも暑いと、「冷房の効いたお店に入る」という行動につながります。

 行動観察を専門とするわれわれは、「お店に入る」という行動に着目しますが、ニューロマーケティングは、行動になる前段階の「暑いと思う」ところを見ているということではないでしょうか。暑くても、お店に入らない人もいるわけですから、必ずしも行動に結びつかない可能性がありますよね。

谷井 そうですね、「行動の手前にあるものを拾おうとしている」というのは、まさにその通りです。もともと、今行っている事業は、企業の顧客データを管理し、そのデータを販売促進の目的に使っていこうというものです。これは、マーケティング・コミュニケーション領域の支援事業者とも言えます。

 そうした取り組みを、14年間やってきましたが、インターネットやスマートフォンの浸透でデジタルマーケティングが普及してくるにつれ、状況が変わりつつあります。これまでは、どちらかといえば足回りの支援でしたが、企画立案など、いわば頭脳の部分、より「上流のニーズ」が増えてきました。

 その際に重要になるのが「予測」だと考えています。社内では、「消費者行動予測」といっていますが、消費者がどのように行動するかを見極められれば、ある種のモデルがつくれます。すると、マーケティング活動の前に、どういう投資をしてどう活動すれば、どのような成果がでるのか、計算することができるだろうと見ているのです。

 ただ、行動予測をするということは、心の動きがものすごく重要な要素になるのではないかと気づきました。そこで、今から2年ぐらい前から、人の心に関する研究開発を進めています。ニューロマーケティングだけではありませんが、約200人の大阪のIT企業に、研究開発部隊をそろえているのも珍しいと思います。

松波 「予測」というのは、一番難しいことですよね。

谷井 予測といっても、そんなに長い期間のものではないですよ。例えば、普段「フリスク」を持っているとしましょう。これを食べると「口が臭くならないようにする」という効果もありますが、この裏の心理には、「口臭を気にしている」「不潔には思われたくない」「かっこよく見られたい」といった欲求があります。

 それらを捉えていくと、消費者行動を読めるのではないかと思っています。それは、そこに消費者の価値観が反映されているからです。それを解明していくことが、消費行動に大きく影響を与えられるのではないでしょうか。

松波 行動観察も、お客さまの価値観を知ろうという点ではまったく同じですね。お客さまは何を優先して、何を後回しにするのか。どんなことについては少々金額が高くてもお金を払いたいのか、逆にどういうことについては高いと困るのか。そうしたことを行動によって知ろうとします。