6月9日、米国のポールソン財務長官はドル防衛を宣言。これ以上のドル安を阻止する手段として「為替介入をも排除しない」と言い切った。

 明けた10日、そんな米国の意向を袖にするかのように、タイと韓国の中央銀行は、自国通貨買いのドル売り介入に打って出た。

 ポールソン発言からさかのぼること4日前の5日には、欧州中央銀行(ECB)のトリシェ総裁が、景気減速下にもかかわらず利上げを示唆していた。利上げはユーロ高・ドル安の動きを後押しする。

 なぜ、こんなちぐはぐなことになるのか。問題を解く鍵は原油高、食糧価格高騰で高まる「インフレ懸念」にある。

 まずは、米国。5月の消費者物価総合指数は前月比0.6%増と、前月より0.4%ほど上昇幅が拡大した。エネルギーと食品を除いたコア指数も同0.2%増と3ヵ月連続のプラスとなった。

 一方、非農業部門の雇用者数が5月まで5ヵ月連続のマイナス。5月の失業率に至っては、前月から一挙に0.5ポイント悪化し5.5%になった。

 米連邦準備制度理事会(FRB)はこれまで、サブプライム問題に端を発した金融市場混乱によるショックを緩和しようと利下げを継続してきた。

 しかし、インフレ懸念がかくも高まっては、これ以上の利下げは難しい。逆に、景気減速に歯止めがかからない以上、インフレ抑制のために利上げに踏み切るのもまた難しい。金融政策は身動きできなくなってしまったのだ。

 その米国に残された唯一のインフレ抑制手段、それがドル高政策である。ドルが高くなれば原油をはじめとした輸入品の価格は低下し、インフレ圧力が緩和される。

 だが、自国通貨買いでインフレ抑制に出たい事情は、韓国、タイなどアジア諸国も同じだ。タイの5月の消費者物価上昇率は原油・食糧価格高騰で前年同月比7.6%と、約10年ぶりの高さを記録した。同様に韓国の5月の消費者物価上昇率もウォン安が加わり、前年同月比4.9%と、2001年6月以来の高い水準となった。

 ユーロ圏の5月の消費者物価上昇率もまた前年同月比3.7%と1999年のユーロ導入以降、最高となった。これではECBが利上げを示唆するのも無理はない。

 各国とも自国通貨を高くしてインフレを抑え込みたいわけだが、通貨の高低は相対的なもの。つまりすべての通貨が高くなることはありえない。互いに自国通貨を高くしようとすることで、インフレを押し付け合っているのだ。

 原油高、食糧高を根治するにはつまるところ需要抑制か、供給増しかないが、先般のG8財務相会合でも効果的な対策は打ち出されずじまい。しばらくは、通貨高を競い合うサヤ当てが続くだろう。

(『週刊ダイヤモンド』編集部 竹田孝洋)