数理モデルが解いた、勝つための「弱者の戦略」と「強者の戦略」

 軍事作戦の数理モデルが、日本で経営戦略として知られているのは、軍事作戦で優位性を生み出すモデルが、マーケティングや販売促進の力学と共通する部分があるためです。ランチェスターが発表した法則は二つあります。

(1)ランチェスター第1法則「一騎打ちの法則」

 古代の戦闘のように1人が1人を狙い撃ちする戦いの状態。30人と20人で戦いを行うと、一騎打ちの場合は30人の側が10人残り、20人の側は全滅します。

(2)ランチェスター第2法則「集中効果の法則」

 一対一ではなく、集団が集団を狙い撃つ状態。10人と5人が同じ性能の銃を持って、相手の集団を狙った場合、一回目の同時射撃で10人のグループは10発の弾丸を発し、5人のグループは五発の弾丸を発射します。

 すると10人のグループは、相手の五発の弾丸を受け、逆に五人のグループには10発の弾丸が襲い掛かることになります。

・10人に5発の弾丸が襲う=当たる確率は2分の1
・5人に10発の弾丸が襲う=当たる確率は2倍

 集団が相互に見渡せる戦場では、2倍の兵力があるとき、実際には4倍の戦力差になり、3倍の兵力があるときはなんと9倍の戦力差になってしまうのです。

 二つの法則が示すことは、兵力が少ない側は「一騎打ちの戦い」に持ち込むべきであり、兵力が多い側は「集中効果のある戦い」に持ち込むと一気に有利になるということです。

 往々にして、下位企業が開発したユニークな商品を、ほぼ完全に模倣して上位企業が発売すると、最終的に大差で上位企業が儲けてしまうことがあります。ナンバーワン企業が「後追い戦略」で成功できるのは、広告宣伝費が数倍、販売代理店も数倍あることで、集団対集団では戦力差が二乗に比例してしまうからでしょう。

 集団対抗で同じことをするならば、市場を占拠している側が圧倒的に有利なのです。業界の最大手の営業マンと、下位企業の営業マンが、同じように名刺を出すだけでは、会社の信用度の比較で、最大手の側に軍配が上がります。下位企業の営業マンは、顧客との個人的なつながりを強化するような、一対一の対応を密にして、第2法則の数理モデルから脱出する必要があるのです。