帝人の2008年3月期の営業利益は652億円で、13.2%の減益となった。なかでも同社が日本ではトップシェアを誇るポリカーボネート(PC)樹脂の不調が大きい。樹脂事業で40%近い減益である。今期も営業減益(530億円)が避けられない模様だ。

 PC樹脂は透明で耐熱性の高い樹脂で、DVDなどの光学ディスクのほか、ニンテンドーDSのタッチパネルや自動車のヘッドランプなどに使われている。「PC樹脂はガラスの代替として、自動車の軽量化に不可欠の存在。市場は2ケタ成長を続けている」(高野直人・帝人専務)。にもかかわらず、収益は大きく悪化した。

 というのも、この分野では世界トップの独バイエルが価格据え置き方針を打ち出しているからだ。実際、第1四半期のバイエルの化成品事業の利益はEBIT(税引き前営業利益)ベースでゼロだった。利益よりもシェアを優先している経営姿勢がうかがえる。

 バイエルは生産量は公表していないが、「帝人の2~3倍」と目される。その最大手が仕掛ける消耗戦のあおりを食って、「光学向け用途を中心に、原料高の価格転嫁が進まなかった」(高野専務)格好だ。09年に予定していた中国での設備投資も延期する方針だ。

 だが、10年以降、さらに厳しい状況が待ち受けている。07年に米GEプラスチックを買収して一気にバイエルに次ぐ2位に躍り出たサウジアラビア基礎産業公社(SABIC)や、三菱グループと組んだ中国の中国石油化工(SINOPEC)がPC樹脂の新製造ラインを立ち上げるためだ。川下事業の強化を掲げている出光興産も増産を明らかにしている。

 これら増産ラッシュのなかで、帝人が得意とし、付加価値の高いブルーレイ・ディスクでさえ、思うように収益が上がらない恐れが出てきた。

 帝人は、「光学用途から産業用途へのシフトを進めている。実際、自動車メーカーや電機メーカーとの共同開発が進んでいる」(幹部)と、共同開発をテコに収益改善を狙う。写真のように、次世代新幹線「N700系」の窓を開発するなど、技術力もアピールしているところだ。

 成長市場でありながら、儲からない――。10年以降の“PC樹脂戦国時代”での生き残りをかけて、技術開発力はもちろん、合従連衡や再編の動きも出てきそうである。

(『週刊ダイヤモンド』編集部 大坪稚子)