ーーでは、ここからは会場からの質問をお受けします!
質問1:同時並行で何作も連載や単行本を書いていて、混乱されないのですか?
実は頭を切り換える秘訣があるんです。何かというと、「この小説にはこの音楽」とサウンドトラックを作品ごとに決めています。その曲をかけると、パブロフの犬みたいに、その小説の世界が蘇ってきてすぐに浸れるんですね。
ただし、この『雨に泣いてる』は、当初のテーマ曲の設定がマズくて、執筆に苦戦した一因でもありました。書名を見てピンと来た方もいらっしゃるでしょうが、これ、私が大好きな歌のタイトルなんです。
柳ジョージ&レイニーウッドの曲で、こういうブルースみたいな歌が流れているムードをつくると、ハードボイルドになるかなと浅はかにも考えました。タイトルもここからきていて結果的にはうまくハマりましたが、今回の原稿を書き進めるプロセスには向いていなかった。
ハードボイルド小説には、ジャズが流れるなかでウイスキーを入れたグラスの氷をカラカラならしてるイメージがありますけど、被災地でそんな不遜なことするヤツはいません。ハードボイルドのイメージで選んだこの曲を聴きながら書き始めたら、原稿の下読みをしてくれる事務所の編集者から「これは一体どういう主人公を書く気なんですか? 被災地で自分にうっとりしている記者がいるんですか?」と手痛い指摘を受けました。
今回はそんなわけで、音はすべて消して、いったんハードボイルドという世界観は捨てました。本気で被災地に足を踏み入れるつもりで、虚構のなかでルポルタージュを書くことにしたんです。つまり、一人称でひとりの主人公という設定はそのまま活かして、携帯電話やネットもほとんどつながらない被災地で、自分の目が現場を映すカメラであり、自分の内側を覗くカメラでもある状態で、記者が何をして何を感じたのか伝えていくつもりで書きました。そうやって頭から書き直しました。書き下ろしだったからできたことですね。連載だったらアウトです(笑)。
質問2:作家として一番苦しいのはどんな点ですか。
本が売れないことです(笑)。
冗談はさておき、登場人物が似てるって言われたときですね。同じ人間が書いているんだから当たり前だろ、とも思いますが、プロとしてそれじゃいけません。若い頃と比べて変わってきたのは、そういう人物観の幅を広げる意味もあって、価値観の違う人と積極的に会うようになったことです。私は、飲みにいくともっとおしゃべりなんですが、昔は腹を立てたら無口になったりしていたのに、最近は逆にそういう価値観の違う人をしゃべらせるために取材モードで話すようになりました。それが結構面白いんですね。
よく作家の方の苦労として、テーマが思いつかないというのも聞きますが、私の場合はテーマを外から見つけているのでそれはありません。いつも違うジャンルや違うテーマを小説にするためゼロから取材していると、外からいろんな情報が入ってくるし、時代が変われば新しいテーマも生まれます。
質問3:流れるようにお話しをされますが、途切れず話すコツはありますか。
事務所からは喋りすぎだとたしなめられますが、慣れだと思います。話す場合は原稿は書かず、迷ったら戻ってこれるように骨子だけメモしています。話すときにうまくいかないのは、きちんと演説文を作って読まれているからでは?一度見落としたら、どこを読んでいるかわからなくなりますよね。筋だけ決めておくのがコツで、あとは、いかにも予定通りに話しているように見せるかです(笑)。