エクセルが使える人=マクロが使える人? それともショートカットをたくさん知っている人? いえいえ、本当にエクセルが使える人は、基本こそ大切にしています。『ビジネスエリートの「これはすごい!」を集めた 外資系投資銀行のエクセル仕事術』の著者・熊野整氏による連載第15回。
エクセルの計算ミスをしがちな人たちには、いくつか特徴があります。その1つが、「むやみに難しいエクセルを使う」ことです。当たり前の話ですが、計算はシンプルでわかりやすいほど、ミスをしにくくなります。
筆者が企業の研修にうかがうと感じるのですが、「エクセルが使える人」イコール「マクロが使える人」、あるいは「ショートカットキーをたくさん知っている人」だと思っている人がけっこういます。
これは大きな誤解です。
シンプルに計算すればいいものを、わざわざ難しい関数やマクロを使って計算した結果、チームのメンバーはそれを見ても理解できず、混乱して数字から遠ざかろうとする。そんな最悪のケースが少なくありません。
筆者は「エクセルマニア」と呼んでいますが、簡単な計算であっても、できるだけそれを自動で計算できるようにしようと、必要のないマクロをわざわざ使って、一気に計算する人たちがいます。気持ちはわからなくもないですが、エクセルマニアが作ったエクセルは、ほかの人にはわからないし、計算のチェックもできません。
そういうエクセルマニアが会社を辞めると、引き継ぎができないため、エクセルのファイルをゼロから作り直すこともよくあります。マクロの知識を持っている人が、最初の段階で独りよがりにマクロを使ってしまうと、こうしたトラブルが起きてしまいます。できるだけシンプルに計算して、全員でその計算をチェックするようにしましょう。
投資銀行はたくさんの計算、複雑な計算をしていますが、マクロを知っている人はほとんどいません。筆者も投資銀行時代に、マクロがないと困ると思ったことはありませんでした。シンプルな計算を徹底的にチェックする。その繰り返しが、チーム全体でミスをなくすために不可欠です。
では、シンプルな計算を目指すカルチャーを作るには、どうすればよいのでしょうか。やり方は単純です。難しい計算をしている人がいたら、「これはわかりにくいから、もっとシンプルにして」と、はっきり言うことです。難しい計算をすることがカッコいい、と思うのは間違っています。難しい計算はわかりにくいし、わかりにくいのはよくないことです。だから「もっとシンプルにしてくれ」と言う。それを繰り返していれば、次第にシンプルな計算をするカルチャー(図を参照)になっていくはずです。
難しい計算をしたがる人の理屈には、「たしかに難しい計算だが、これによってエクセル作業が自動化され、作業効率が上がるのだからやるべき」というものがあります。たしかに一理あります。誰だって、作業はできるだけ自動化したいものです。そこでチームで議論してほしいのが、「作業自動化のメリットと、難しい計算によってミスが起きるデメリット」の兼ね合いについてです。ちょっとした自動化にこだわりすぎて、計算ミスが起きては意味がありません。
筆者はマクロを全否定しているわけではありません。どうしてもチームでマクロを使う必要が生じることもあるでしょう。そのときはマクロを使うべきです。ただし、その場合はチーム全員でマクロを使えるように、スキルアップに努めてください。大事なことは、チーム全員がスキルレベルを統一させ、独りよがりのエクセルによる計算ミスを防ぐことです。