大手銀行3グループが繰り広げていた日興争奪戦。三井住友フィナンシャルグループが日興コーディアル証券(個人向け)と日興シティグループ証券(法人向け)の一部を買収すると発表したことで、ついに終止符が打たれた。

 買収金額は5450億円。だが、PBRなどから算出した日興グループの価格は約3000億円。しかも日興グループの企業価値が維持できるか不透明ななかでは、はなはだ高いと言わざるをえない。

 たとえば日興グループは、上場企業約700社の主幹事を務めるが、うち200社は歴史的経緯から三菱UFJフィナンシャル・グループがメインバンク。三井住友傘下に入ったことで、日興の主幹事はずしは確実に起こる。

 未上場企業では、そうした危惧が現実のものとなっている。かつて、上場予備軍200~300社を顧客として抱えていたが、身売りの影響でいまや50社まで減少。これがさらに「4~5月で20社程度に減る見込み」(関係者)というから、上場企業も時間の問題で大きな痛手となろう。

 加えて人材の流出も著しい。法人営業の花形プレーヤーがチームごと移籍するなど、希望退職も含めこの1年で約1割の人員が流出している。

 営業部門だけではなく、コンプライアンスのチェックを行なう法規監理本部長も辞任。4月からはなんと引受審査部長が応急措置として兼任しており、「東京証券取引所に問題視されているが、ほかに人材がいないから仕方ない」と日興関係者はこぼす。

 証券会社の資産は人材と、その顧客に尽きるが、今の日興グループはその両者が毀損した状態だ。三井住友は、買収金額に見合う効果が出せるのか。今後、その真価が問われる。

(『週刊ダイヤモンド』編集部  池田光史)