ぬか漬けが「生物多様性」につながった夜
よく「料理は誰から教わったのですか?」と聞かれることがありますが、いちばん多くは出会いの中から教えていただきました。
一人ひとりからさまざまなことを教えられるので、いつも何かをいただくような気持ちでお会いしています。
話を聞くときも、そのときそのときに聞き流したら終わりですが、出会いの中でじっと聞いていると気づきが与えられます。
ぬか漬けが“生物多様性”であるということに気づいたのも、ぬか漬け達人の友人と話している最中のことでした。
これまでもぬか漬けをつくっていたけれど、あまり手入れが得意でないから、長らく成功したことがなかったの。
それで、その友人にくどいと思われるぐらいに、うまく漬ける方法を聞いていたんです。
それで、どんどんぬか漬けの話を深くするうちに、ぬか漬けこそ“生物多様性”であるということに気づいたの。
ぬか漬けはぬか床の中で、さまざまな野菜とさまざまな菌が出合い、互いに影響しながら共存し合っています。
多くの野菜が多くの菌と関わることで新しいものを生み出している。
これは、この世界で人と人が出会って互いに影響し合うのとまったく同じこと。
ぬか漬けこそ、わたしたちの日常生活そのもの。その夜、ついにぬか漬けが“生物多様性”とつながったのです。
ぬか床に野菜を入れるときも、同じ大根でもにんじんでも生のものと熱を加えたものとでは、食べたときの印象が違います。
ぬか床に入れる前に、表面が透き通るぐらいに野菜を熱湯でゆがいてから入れると、おいしくなります。
何でも落ち着いてやることがいちばん
野菜が透明になったときは“いのちのうつしかえ”ですから、この瞬間を逃さずにしたいのは、ぬか漬けでも同じこと。
そうやって野菜を下ごしらえし、ぬか床に入れるときには「明日は○○さんがくるからおいしく漬かってね」と心の中で祈ります。
そうすると野菜自身が努力して、おいしくなろうとするように思うのです。
敗戦後70年、「早く早く」と効率が重視される時代が続いてきました。すべてが早くなり、生活そのものが変わっていっています。
けれども、何でも落ち着いてやることがいちばんです。パパッと調理すると性格もそのようになります。
また、性格も調理する心のようになれば変わりますから、それをぜひお漬物を漬けることで体験してほしいのです。