大人の価値観にあわせて、サークル経験をアピールしてもダメ

ちきりん 私、この本で英語については、そこまで大事な能力じゃないとばっさり言い切ってるんです。英語で仕事ができるということが、本格的にコモディティ化しつつあると思ってるから。もちろん、できるに越したことはないんですよ。いま一瞬で英語が話せるようになる魔法があるなら使うべきです(笑)。でも、英語を身につけるには相応の時間とお金がかかります。それに見合う対価が得られるかどうかは考えたほうがいい。

田端 うん、うん。

ちきりん 借金をしたり、何年もアルバイトして、お金を貯めてイギリスやアメリカに留学したら、もはや元がとれません。自分がいま手に入れようとしているものは、いくらの価値を生むものなのか。そういう発想が必要だと思います。

田端 市場って、ひとつじゃないんですよね。そこがおもしろい。就活も、「就活市場」とひとつでくくられていますけど、本当は違う。もっとメッシュを細かく区切って、きめ細やかに市場を見ないといけない。

ちきりん そうなんです。リクナビやマイナビに登録して仕事を探す市場は、大学名がいい人に圧倒的に有利な市場なんです。そんな市場では自分は不利だと感じたら、別の市場に参戦すべきです。仕事を得る方法はいろいろありえるんだから。

田端 日本人って、「一所懸命」が大好きじゃないですか。文字通り、「一つの所に命を懸ける」と書いて一所懸命です。それが象徴しているように、努力しようとする以前に、自分が割と楽に勝てる、追い風が吹いてそうな土俵を選ぶという感覚がないんですよね。まじめな人ほど、土俵は人から与えられるものだと思っている。

ちきりん それはやっぱり学校的価値観ですよね。テストの点で一番を目指すことしか教えられていないので、競争の土俵はひとつしかないと思ってる。陸上選手の為末大さんは、短距離走じゃ無理でもハードルなら世界に挑戦できると考えられたと。そして見事に、世界陸上選手権でメダルを獲得されました。そういう発想が普通の人にも必要です。就活に関しては、まじめにがんばる人ほどつらい思いをしているのがかわいそうで……。自分の価値が最大限に評価される市場を選ぶという発想がある、ってことを、わかりやすく伝えたかった。

田端 就活って、それまで学校的価値観で育ってきた人が、初めてマーケットにさらされる機会ですよね。僕は1998年に就活をしていたんですが、大学時代から企業のウェブサイトをつくる仕事を業務委託でしていたので、面接でも、その知識をフル活用しました。企業もようやく求人ページを用意し始めたくらいの頃だったので、「このサイト、いくらでつくりました? それ、業者にボラれてません? あと、この音楽が流れる機能とか、別にいらないですよね?」とか言って(笑)。マーケットって、対峙してる取引相手と、「情報の落差」があればあるほど有利なんです。それをどのようにアピールするか、がポイントだと思います。

ちきりん そうですね。

田端 それで言うと、総合商社の面接で「TOEIC900点です」と言ってもダメなんですよ。だって、商社の社員には、TOEIC満点レベルの人がごろごろいますから。面接官から見て、理解の範疇に収まってる時点で、求職者としての自分に高値はつかない。相手が絶対やってないだろうなってことをやってみるといいと思います。例えば今だったら、ドローンとか。数万円で買えるんだから、実際に飛ばしてペットボトルを配達してみる、空撮した動画をアップしてみる。そして、自分が面接を受ける会社だったらドローンでどんな事業ができるか提案してみる。ポカーンとする面接官もいると思うけれど、そういうチャレンジをおもしろいと思ってくれる会社のほうがいいですよね。

ちきりん 大学生が社会人の価値に併せてアピールしても、社会人から見て「スゴイ!」ってレベルにはならない。

田端 そうそう。「サークルの副部長をやったので、リーダーシップには自信があります」とかね(笑)。それよりも「自分は、あなたが持っていない知識・ノウハウ・スキルを持っていますよ」というシグナリングをした方がいい。社会人はドローンにハマって研究をしまくるには忙しいですから、例えばそういう実体験を持ってる人は強いわけです。LINEもね、この3年で会社のステージが変わって、あえて挑発的に言うと、受けにくる人も、いわゆる優等生が多くなっちゃってつまらないんですよ。