新しく農業を始めようとすれば、まず農家や農業法人等で研修を受けるのが一般的だ。だが、ここに落とし穴がある。一見儲かっている農家に研修に行っても、その後、実際に独立したときに、その研修がまったく役立たないことがあるからだ。なぜそのようなことが起こるのだろうか。

研修先を見誤ると、
その後の事業はうまくいかない

 成功する農業者は、農業生産で経営が成り立っているプロの農家に学び、地域の人たちからの情報を大切にします。しかし、うまくいかない人は、農業生産で成り立っていない農家から学んで、生の情報には関心を持ちません。

 新規就農者として独立した人を見ていると、教えてもらった農家と同じようなやり方を疑わずに行う人がほとんどです。そして、そのやり方はよくも悪くも身についてしまい、その後、やり方を変えていくことはとても難しくなります。

 これは会社のビジネスモデルを変えるのと同じくらい大変なことなのです。

 あるとき、新規就農した人の講演を聞いたことがあります。その人は、農業が好きで農業法人で働いたあと、その紹介で農家に研修に入りました。

 その農家ではさまざまな作物の栽培方法を教えてもらい、2年後に晴れて独立しました。独立するときも、近隣の農家の方が土地や中古機械を貸してくれるなど、いろいろな協力があったおかげで、無事に独立できたのでした。

 その人は、教えてもらったように、いくつもの作物を栽培して、近くの直売所で販売しました。しかし、朝早くから夜中まで一人で働き、直売所に野菜を持っていっても、なかなか所得が上がらない日々が続きました。研修に入った農家のように余裕のある生活とはほど遠い生活です。

 サラリーマン時代に働いて貯めた貯金も使い果たし、もう限界で農業を辞めたいという内容の話でした。