なぜ肝心なときに失敗してしまうのか、なぜ幸せを自ら崩壊させてしまうのか……。あなたには、そんな傾向はないだろうか? 実はこれらはすべて思い込みからなる「人生脚本」のせいだと語るのは、「人生の99%は思い込み」の著者である心理学者の鈴木敏昭。
前回は、人生脚本を構成する禁止令について紹介した。そして、人生脚本に影響を与えるもう一つの要素として、「ドライバー」という考え方がある。人の行動を駆り立てるドライバーとはいったいなにか――

あなたを駆り立てている
「ドライバー」

 思い込みからなる人生脚本。人生を大きく左右するこの脚本に影響を与えるものとして、禁止令の他に「ドライバー」というものもある。

 たとえば、世の中には超ポジティブな人がいる。会社ではバリバリと働き、定時で仕事終了。その後は異業種交流会などで人脈を築いたり、セミナーに通って業界の最先端の情報を仕入れたりする。
 趣味が多く、休日は友人と海や山に出かけ、しっかり恋愛も楽しんでいる―――

 そんなエネルギッシュな人を見ていると、「人生が充実していて、羨ましい」と思うかもしれない。

 しかし、そんな人たちは、脚本から逃れて自由に生きているのだろうか。
 人が人生脚本から逃れ、自由に自分らしく生きることはとても難しい。超ポジティブな人たちも、実は思い込みにとらわれているかもしれないのだ。
 心理学者のテイビー・ケーラーは、子どもを行動に駆り立てるメッセージを「ドライバー」と名付けた。英語のドライブには運転するという意味のほか、「駆り立てる」「追いやる」という意味もある。
 子どもは、親の言動によって行動を駆り立てられることがわかっているが、その一つが「ドライバー」だ。

 ドライバーには、以下の5つがある。

 1.完全であれ
 2.努力せよ 
 3.急げ
 4.喜ばせろ
 5.強くあれ

 ただし、親は直接的にこれらのメッセージを言葉にして伝えているわけではない。
テストでいい成績をとったときに、「よく頑張ったわねえ。ご褒美を買ってあげる」という親の喜ぶ姿を見て、「もっと喜ばせないと親に愛してもらえない」と子どもが「喜ばせろ」のドライバーを受け取るかもしれないのだ。
 したがって、必ずしも親の本意とは限らない。親は単純に、子どもの成長を喜んでいるとも考えられる。

自分のなかに潜む
ドライバーを見つける

 5つのドライバーを見て、「これって悪いメッセージ?」「むしろいいのでは?」と思う人もいるだろう。確かに、これらはある程度は必要な要素だ。しかし、心を強く支配するようになると、極端な行動に結びつく可能性もある。

「努力せよ」のドライバーに駆り立てられ、周囲が止めているのに寝る間も惜しんで働く人もいるだろう。もし身体を壊してまともに働けなくなってしまったら、結果的に自分が苦しむことになる。
「ほどほど」を学ぶのも人生では大事ではないだろうか。ちょっと頑張りすぎているときに、「もう少し肩の力を抜こう」と楽になるためにも、ドライバーの存在を知っておくのは必要なのだ。

 幸い、禁止令と違ってドライバーは自分で意識することが比較的容易だ。

たとえば、次のような言葉を子どもの頃に親や先生に言われたことはないだろうか。

・「しっかり勉強して、いい大学に入れ」→「完全であれ」のドライバー
・「一所懸命努力して、成功せよ」→「努力せよ」のドライバー
・「何ごともテキパキと早く仕上げよ」→「急げ」のドライバー
・「人に迷惑をかけないようにせよ」→「人を喜ばせよ」のドライバー
・「勇気を出して自己主張せよ」→「強くなれ」のドライバー


 自分の中に「いつも、ついやってしまう」「こうしてないと、なんとなく不安」という行動パターンがあるならば、それはドライバーの影響かもしれない。

自分の中の人生脚本を知るには、自分が持つドライバーを知ることも大切だ。その存在に気づくことが、不幸な人生脚本から逃れるための第一歩だと言える。

 次回は、禁止令とドライバーに影響を受けた人生脚本を推し進める「ゲーム」の存在についてお伝えする。