「見えざる手」を見える化した需要・供給曲線

受講者 次はいよいよ見慣れた需要・供給曲線の登場ですね。

 英国のジェヴォンズが急死してからアルフレッド・マーシャル(1842-1924)がケンブリッジ大学経済学教授に就任し、新古典派を継承、発展させます。マーシャルはあちこちに登場するよね。マーシャルの経済学は、のちに英国古典派を継承するという意味で新古典派と呼びました。

 高校の教科書にも出てくる需要・供給曲線によって、マーシャルは新古典派の価値効用説と、市場の均衡を可視化しました。市場の均衡とは、アダム・スミスの「見えざる手」のことです。放っておけば、市場メカニズムによって価格と生産量は決定する、という考え方です。マーシャルが縦軸に価格(P)、横軸に生産量・購買量(Q)をおいて図示しました。

 物やサービスの価格が高いと(Pの上方)、それを買う人の数(需要)は少ない(Qは原点に近い)。価格が下がるにつれて購買量は増えていきます。したがって需要曲線は右下がりとなります。この図では直線ですが、本来は原点に凸の曲線です。直線も曲線のひとつなので、この図では分かりやすく直線で描いています。

 一方、売り手側(供給)からすると、価格が低いと利益水準も低いので、生産量を少なくします。価格が上がっていけば生産量を増やすことになる。したがって供給曲線は右上がりとなります。

 そして需要曲線と供給曲線の交点が均衡価格と均衡量になる。これが「見えざる手」であり、需要・供給の法則です。ここから現代のミクロ経済学が生まれます。ミクロ経済学を価格理論ともいいます。

受講者 すると、これでミクロ経済学は完成したんですか。

 いやいや、このように需要・供給の均衡(見えざる手)の分析が成立するには条件があります。

 まず、市場に参入する消費者は合理的な考え方をもつという点。合理的とは、自分の利益、損得のみを考えて欲望に忠実に行動する、ということです。同様に企業側も最大の利潤を求めて行動することが前提となります。

 さらに、市場には多数の参加者が自由に参入できることが条件で、財やサービスの質は同じ、そしてその財やサービスに関する情報を市場参加者全員が持っている、ということも条件です。

 これを“完全競争市場”といいます。

受講者 現実に完全競争市場は存在しますか。

 現実にはほとんど存在しません。独占、複占、寡占状態の市場もあれば、消費者も損得だけを考えて行動しているとは限りません。