「遺品整理、埋葬、部屋の原状回復が必要です。埋葬については、生活保護の葬祭扶助があります。その他の費用には、火災保険と家財保険で備えることになります。保険料は2年間で1.5万円程度です」(稲本さん)

 届け出や手続きに必要な手間・時間は「大家さんの仕事」に含まれるとして、気になるのは原状回復の費用だ。

「ただ単に『亡くなっていた』という場合、ご遺体を運び出し、遺品を整理して原状回復をすれば済む場合の費用は、10万円程度です。夏場、ご遺体が腐敗していたりすると、畳や床の取り替えに数十万円かかることもあります。もしも腐敗が進んで、床下のコンクリートにまで『染み込んで』しまっていたら、100万円では済みません。でも最近、孤独死していた場合の原状回復費用に対して、『上限100万円』という家財保険も出てきました。生活保護の、特に高齢の方に特有のリスクに包括的に対応する保険は、まだありませんが」(稲本さん)

 家賃は確保できる。緊急連絡先や保証人も、代行サービスによって確保できる。孤独死にも保険で備えることができる。ならば、リスクへの懸念から生活保護利用者の入居を拒む必要性は、かなり小さくなるだろう。残るのは偏見の問題だが、ガイドブックには「家主さんへのお願い」として、

「住まいの安定・安全・安心の実現に向けた社会貢献活動のひとつとご理解いただき、生活保護受給者の居住の確保にご協力いただけませんか?」

 とある。「想定されるリスクに備える仕組みを活用できるのであれば『社会貢献活動』を検討してみてもよいかもしれない」と考えはじめるアパート経営者は、少なくなさそうだ。

空き室問題の解決に
つながる可能性も

(公社)全国賃貸住宅経営者協会連合会(ちんたい協会)サイトのトップページ。「大家さん」の仕事が、単に賃貸むけ物件を提供することにとどまらず、行政・地域社会など幅広いつながりのもとに成立していることが読み取れる
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 さらに、この試みは、アパート経営者の悩みを解決する可能性もある。

「アパートは、今、全国平均で22~23%が空き部屋なんです。入居者ゼロになる可能性のあるアパートもあります。でも、入居者ゼロのアパートを『放置アパート』にしてしまうと、家賃収入がなくなるだけではありません」(稲本さん)

 2014年11月、「空き家特措法(空家等対策の推進に関する特別措置法)」が公布され、2015年5月より全面施行されている。

「『放置アパート』は、空き家特措法の対象になります。行政代執行で解体、過料の支払い、ということになります。『それなら、補助金をいただいて、適切な改修をして、生活保護の方に入っていただいたら?』と」(稲本さん)

 国土交通省の「あんしん居住推進事業」では、アパートのバリアフリー改修工事・耐震改修工事・入居者の居住の安全確保を図るための改修工事に対し、アパート一室50万円を上限として、費用の3分の1が助成される。

「いただく家賃と投資する改修費を考えれば、空き室のままにしておいたり、『放置アパート』にしてしまって解体することになるよりは良いはずです。今後15年くらいの、大家さんたちの収入の安定にもつながります。でも、30年とはいかないでしょうね。日本の人口が減っていますから」(稲本さん)