「セシウム134、137、カリウム40
に汚染されている!!」と宣告!

広瀬 秋山さんのしいたけを毎年送ってもらいましたが、あれは日本一でした。だから、フクシマ原発事故が起こって、もう秋山さんのしいたけを食べる楽しみを奪われました。今回の原発事故では、そうした文化の喪失がほとんど語られませんが、重大なことです。

 しいたけは、クヌギやナラなどの原木に菌を植えて育てますが、秋山さんの住んでいた阿武隈山地は、良質な木が豊富で、福島県は原木を全国に供給していましたからね。

秋山 そこに、フクシマ原発事故が起きて、阿武隈山地に放射能が降りつもり、阿武隈の森はすべておしまいです。「まさか!」という感じでした。僕も安全神話のトリコになっていたんだ、と思います。

広瀬 人間は、そういうものです。私自身、原発事故が起こる半年前の2010年夏に『原子炉時限爆弾』を書いて、大事故は必ず起こるという論理的な確信はありましたが、一方で、感情的には、どうしてもその危険性を認めたくないという自分がいましたからね。

秋山 地震や津波のことは正直、頭にありませんでした。つまり、フクシマ原発事故前の問題意識は、農薬と遺伝子組み換え作物に向いていました。僕が有機農法、自然農法を選んだのは、そのためです。
 そして、ビル・ゲイツ財団が大量の資金を遺伝子組み換え作物の研究所に補助していたので、原則問題として僕はパソコンと縁を切ることにしました。
 現実の問題として、農作業そのものの現場で、パソコンは必要ありませんでした。5年おきにソフトを買い替える。買い替え需要を組み込むビジネスモデルもイヤでした。野良仕事は鍬一本で何十年も仕事が可能。僕は暮らしのスタイルとして、百姓になりたかった。
 自分がパソコンを使うことは、遺伝子組み換え作物が世界に広がることにもつながります。

広瀬 だからメールも一切使わない宇宙飛行士・秋山豊寛になって、時には私も秋山さんと連絡をとるのが大変だけれど、メールなんて考えてみれば、ごく最近のテクノロジーですよね。便利ではあっても、なくても生きられる。

秋山 原稿も手書きをFAX送信でこなしています。先ほど、僕の「4つの顔」という話がありましたが、もう1つ「被曝者」という顔もあります。

広瀬 それは宇宙ステーションに乗ったロシアで?

秋山 いえ、福島の被曝者です。
 東日本大震災から1ヵ月後の2011年4月12日は、ソ連の宇宙飛行士・ガガーリンが人類最初の宇宙飛行をしてちょうど50周年に当たる日でした。
 記念式典がモスクワであり、僕が一緒に訓練を受けた宇宙飛行士仲間たちから誘われて、ロシアに行き、彼らに再会しました。
 彼らはフクシマ原発事故のことをとても心配していて、「どれくらい被曝したか病院でチェックしろ」と言うのです。

広瀬 ロシアには、1986年4月26日のチェルノブイリ原発事故以来、放射線の健康への影響に関するデータが蓄積されていますからね。

秋山 2011年6月に、「宇宙生物学研究所」というところで入院検査してもらったら、セシウム134、137、カリウム40に汚染されていると診断されました。
 8月に「朝日新聞」の記者が「プロメテウスの罠」で、しいたけのことを書きたい、と取材にきました。
 10月3日の初回記事では、僕が話したことと違う部分があったので、少々がっかりしました。記事には、私の被曝について「検査結果は問題ない」と書かれていましたが、内部被曝はしていたのです。
 そのための検査でロシアまで行ったのですから。そのことは記者に話したのですが、記者が聞き漏らしたのか、僕のプライバシーに関わると考えてあえてボカしたのか、不思議です。
 それからロシア人からの忠告です。

 記事では、水のことしか触れていませんが、食べ物についても言われたことが、朝日の記事では書かれていません。これについては、岩波書店から出版した僕の『原発難民日記』にも書いてあるので、それを参考にしてください、と記者には言ったのですが、そのあたりが抜けています。

 福島県は、県をあげて福島産品の安全キャンペーンをしています。そんなこともあって、自主規制したのか、心配になってその記者に電話をしました。
「アレ、違うぞ」と言ったら、「本にする時に訂正します」と言っていました。昔から知っている記者なので信用しているのですが、やっぱりマスメディアは……という気分にもなります。

 ロシア人の医師からは、「あなたの汚染度はただちに健康に影響を及ぼすものではない」という、例の聞き覚えのあるフレーズを言われた時には笑ってしまったのですが、笑いごとではないのです。