ムダなことはしていないつもり、
合理的にやっているつもり

 私自身、海外で働き、外国人の部下を持った経験もありますが、日本の仕事で感じるのは、何よりやり直しの仕事が多いことです。これは、上司から部下への権限委譲が進んでいないことにも由来しています。

 いつも自分の上司にお伺いを立てて仕事をしないといけない。だから、部下にも自分の上司を意識した仕事を求める。

「これではきっと上司が納得しない」「上司に受け入れてもらえないかもしれない」「もっと頑張りを見せないといけない」とばかりに、部下に必要以上の仕事をさせる。だから、やり直しが増える。細かな仕事が増える。仕事量が増える。残業が増える。

 そして上司はといえば、意思決定がなかなかできない。慎重に、慎重に時間をかけてやろうとする。だから、その材料を部下に求める。あれは考えたか、これも考えたか。

 あのデータも欲しい、このデータも欲しいと、本当はそれほど必要ないデータまで求める。いつも質問攻めで、何か持っていくと、「これも作っておいてくれ」と仕事が一つ増えたりする。いつまで経っても、結論が出ない。

 これでは、部下は疲弊してしまいます。それこそ、誰でも決断できるほどのデータがあるなら、上司は必要ないのです。誰でも決断できるわけですから。

 要するに、これだけの情報があれば意思決定できる、という「前提」が共有されていないのです。だから、時間がかかってしまう。

 これも海外に出て感じたことですが、日本では、とにかく情報の共有化ができていません。言葉を換えれば、どの仕事がどの程度のレベルで行われるべきなのか、標準が共有されていないのです。誰がどんな知識を持っているのかも、共有されていません。だから、隣に聞けば二分でわかることを、二時間かけて調べてしまったりする。

 実際、日本のスタッフ部門には、暗黙知がたくさんあります。「あの人にしかできない」が価値になっている。いや、価値にしようとしているのかもしれません。その仕事は自分にしかできない、というものを作ろうとしてしまう空気があると思うのです。

 おかげで人事異動のたびに、大きな無駄が生まれることになります。暗黙知ですから、またゼロからスタートしないといけない。仕事をマスターするのに、大いに時間がかかる。

 みんな無駄なことはしていないつもりです。しかし、それは「やっているつもり」になってしまっているだけだ、ということに気づく必要があります。それは、単なる「心がけ」。「やろうと思っている」で終わってしまっている。実はたくさんの無駄が、潜んでいるのです。