ビジネスの戦場では「誰もが潜在的に持っているアイデア」をできる限り多く引き出せた者が勝利する。

しかし、そもそもアイデアを「引き出す」とはどういうことなのだろうか? 実のところ、「アイデアを引き出す」ことと「記憶を引き出す」ことは、非常によく似ている。

優秀なコピーライターがアウトプットする言葉や、売れるお笑い芸人の「あるあるネタ」なども、基本的にはビジネスにおけるイノベーションと同じような構造の上に成り立っているのではないか?

古代ギリシャの哲人に「アイデアの発想法」を学ぶ!?

古代ギリシャ哲学の大成者であるプラトンは、著作の中で「真理の認識とは、想起(思い出すこと/アナムネーシス)である」といった趣旨のことを語っている。

たとえば、ピタゴラスの定理を僕たちが正しいと認識できるということは、かつて僕たちの魂が真理の世界(イデアの世界)に存在しており、いままさにイデアを「思い出している」からにほかならない――そう考えるのが最も理にかなっている、とプラトンは主張しているわけだ。

まさにイデア(idea)を語源とする「アイデア」については、多くの人が似たことを語っている。つまり、「発想するとは、思い出すことである」というわけだ。

「発想する」と「思い出す」がしばしば並べて語られるのは、両者が「頭の中から何かを引き出す」という点で共通しているからだ。

一般的な意味の「思い出す」は、頭の中の情報(知識)を顕在化させることである。
一方、「発想する」とは、頭の中に潜在的に眠っているアイデアを顕在化させることにほかならない。

ビジネスの「競争」において僕たちが「しまった!」と思う場面を考えてみよう。
僕たちがそもそも「しまった!」と感じるのは、相手が現に発想したアイデアを、自分も「潜在的なかたちで持っていた」からである。それを相手が先に顕在化した(思い出した)のに対し、こちらはそれを顕在化できなかった(うっかり忘れていた)。
だからこそ、「くやしい!」「残念だ!」という感情が湧き上がってくるわけだ。

ここで重要なのが、「発想における“しまった”=うっかり忘れ」という点だ。
「忘れる」という言葉にも2つの意味がある。

1つは、完全に頭の中に情報がない状態。つまり、何を忘れているのか自体もわからない状況である。

もう1つが、情報やアイデアは頭の中にあるけれど、それを引き出せない状態だ。
だから、それを他人が見事に引き出してみせると、「ああ、そうだった……」「そうそう、わかってたんだけどね」「ああ、しまった。なんで忘れてたんだろう……」という声が漏れてしまうのである。