ソーシャルメディアとビッグデータがもたらした「評判」がすべての世界で、私たちの「キャリア」はどう変わるのか? 世界初のレピュテーション・マネジメント会社創業者とオンラインプライバシーに精通した弁護士が語りつくした『勝手に選別される世界』から、「すぐそこにある現実」の一端をご紹介する。(構成:編集部 廣畑達也)
企業がコンピューターの分析結果に基づいて社員の採用や昇進を決める時代がやってくるだろう――。『勝手に決められる世界』で「ビッグデータ時代のキャリア」についてそう語る、著者のファーティックとトンプソン。いったいなぜそう言い切れるのか?
コンピューターがいっそう強力になり、個人の評判に関するデジタル情報がいっそう豊富になるなか、雇用から解雇まで、また昇進から懲戒処分までといった、かつて人間が判断を下していた分野でコンピューターが重要な判断を下す傾向が急速に高まっている。私たちはこれを「ほぼ完全にマシンに下される判断(DAMM――Decisions Almost Made by Machine)」と名付け、そのプロセスを「DAMMed(ダムド)」と呼んでいる[damと同じ発音のdamnには「ちくしょう!」というような意味があり、dammedと同じ発音のdamnedは「忌まわしい」という意味になる]。(『勝手に選別される世界』113ページ)
「ほぼ完全にマシンに下される判断」。まさに「ちくしょう!」と言いたくなるトレンドだ。しかも、2人によると、コンピューターの判断が優れているから任されているとは言えないという。
レピュテーション経済が成熟するにつれ、急速に重要度を増している諸問題に関する判断は――コンピューターの判断が不完全なものであるにもかかわらず――ますますコンピューターに任されるようになり、私たち人間のやりとりのますます大きな部分が、ほとんど、あるいはまったく人間の常識を無視して、コンピューターに指図されるようになる。(同113ページ)
いくら優れた人であろうが、関係ない。求職者にとっては、「正しいキーワード」のない履歴書は紙くず同然になり、昇進のチャンスを得たいと願う者にとっては、コンピューターに「見つけてもらわなければ」スタートラインにも立てなくなるのだ。
では、いったいコンピューターは私たちの何を見て、私たちを「選別」するのか?
たとえば、こんなデータだ――きちんと毎日出社して遅くまで仕事をしているけれども、そこそこの時間で切り上げている人は誰か?(遅くまで社内に残っている人は、仕事がうまくいっていないから、浮気をしているから、あるいは、時間管理がヘタだからかもしれない)
常にすばらしい業績をあげているチームで働いているのは誰か?
組織の高い地位にいる人におべっかを使うEメールを書いているのは誰か?
ネットワーク上でけんかを引きおこし、職場の注意を散漫にさせる言い争いをもたらすEメールを書いているのは誰か?
職場の規則をほぼ完璧に守っている人は誰か?(ただし、完璧にではなく――規則を完璧に守るような人は、独立した思考ができない人だから)
常時リンクトインを眺めるといった転職の兆候を示していないのは誰か?(ただし、営業上、眺めている人は除く。この場合は、より多く眺めたほうがベター)(同128ページ)
コンピューターがCEOを選び出すことなど、今後もできないかもしれない。しかし、「誰が出世するにふさわしいか」を点数化し、データとして蓄積していくコンピューターによって、私たちが手にするチャンスはすでに割り振られはじめているのかもしれない。
そうして選ばれたCEOは、果たして人間が選んだと言えるのだろうか。