イノベーターでなくとも、
イノベーションを起こす1つのピースになれる
1968年生まれ。東京都日野市出身。東京藝術大学建築科卒。大学卒業後、作詞家の秋元康氏に師事。放送作家として多くのテレビ番組の制作に参加。その後、アイドルグループAKB48のプロデュースなどにも携わる。著書に『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』など多数。
岩崎 おもしろいですね。それで思い出したのは、「年号」ってありますよね。これって、西洋の人からするとけっこういい制度だ、と思われているそうなんです。なぜかというと、年号が変わると自動的に国民の気分が入れ替わって、新しい時代を始めようとするから。やはり何事も、終わりを設けるシステムが大事ということですよね。ここで夏野さんにうかがいたいんですけど、『もしイノ』では「型」というのがひとつのテーマになっているのですが、イノベーションに「型」はあると思いますか?
夏野 それは難しい質問ですね……。型って、反復練習で体得するものじゃないですか。そういう意味での型は、イノベーションには存在しないと思います。でも、心構えとか哲学みたいなものはあるかもしれない。例えば、「変化をチャンスだと思う」とか「新しいものは試してみる」とか。食わず嫌いって、イノベーションの最大の敵なんですよね。
岩崎 そういうのは、心の「型」と言えるんじゃないですか?
夏野 うーん、でも練習では身につかないですよね。
岩崎 僕、昔、秋元康さんに「お前は自分の話をしすぎる。これから1年間、自分の話はするな」って言われたんです。それで、試しにやってみたんですよ。
夏野 それを言う秋元さんもすごいけど、やってみる岩崎さんもすごいね(笑)。
岩崎 そうしたら、それまでまわりとあまりうまくいかなかったのが、ものすごくうまくいくようになったんです。どんな話でも僕は頷くだけだから、みんななんでも僕に話してくれるようになった。これって、ある種の型かなと思うんですよね。
夏野 「話さない」という一種の決まりではあるけれど、みんなに当てはまる「型」ではないんじゃないでしょうか。『もしイノ』で出てくる「型」って、有力選手のフォームを真似る、みたいなことですよね。その基礎を身につけて、そこから自分なりのスキルを磨いていく。そういうのとは、ちょっと違うのかなと。ただ、岩崎さんがやったように、今までの自分のスタイルと違うことをやってみる、というのはイノベーションの典型的な発見方法ですよね。
岩崎 たしかにそうですね。
夏野 あと、『もしイノ』のテーマとして「居場所」というのがありますが、これもイノベーションの話につながっていると思うんです。それは、イノベーションを起こす張本人でなくても、居場所はあるということ。主人公の夢ちゃんは、イノベーションに向いているかというと、そうではないですよね。
岩崎 僕も書いていて、夢はどう考えてもイノベーターではないなと思いました。でも、彼女がいないとイノベーションを起こすためのパズルは埋まらないんです。
夏野 そう、イノベーションを生み出す仕組みの一部は担える。だから、全員がイノベーターになる必要はないということを、『もしイノ』は教えてくれているんですよね。イノベーションが大事だというと、「自分はイノベーターじゃないから……」と尻込みしてしまう読者は多いと思うんです。そうでなくても、イノベーションを支援する側にいけるんだ、ということをこの本を通して知ってほしいですね。