現在の欧州金融危機の発火点となった米国の住宅バブル崩壊。週刊ダイヤモンドでは、2006年当時のバブル崩壊初期の実情を正確にとらえていた。人気連載「週刊ダイヤモンドで読む逆引き日本経済史」でも取り上げた2006年秋の記事を再掲載する。

米国景気を支えてきた住宅市場が予想を超える勢いで減速している。住宅資産の含み益に依存した消費拡大メカニズムは修正を余儀なくされ、ゆっくりとではあるが、景気の足を現実に引っ張り始めた。負の連鎖はどこまで広がるのか。(*「週刊ダイヤモンド」2006年10月14日号特集「総点検・住宅バブル崩壊でどうなる米国景気」より再掲載。文中の登場人物の肩書きなどは掲載当時のままです)

 「ブタの貯金箱現象(piggy bank phenomenon)」――。

 これは、ここ数年の景気拡大がじつは歪んだものではなかったかという自己批判のなかでたびたび用いられる表現だ。

 米国の住宅価格はここ数年、全米平均で10%台、カリフォルニア州などの主要市場では数十パーセントペースで上昇してきた。黙っていても価値が上昇を続ける住宅は、まるでどんどん肥えていくブタの貯金箱を持っているようなものである。

 米連邦預金保険公社(FDIC)によれば、その貯金箱の中に貯め込まれた全米の“住宅バブル資産”(住宅の時価と歴史的な価格推移からはじき出される理論値の差額)は、五兆ドル以上。気が大きくなった家持ちの消費者は先を急げとばかりに浪費に勤(いそ)しんだ。名だたるエコノミストの多くが、住宅の価値が一ドル上がるごとに消費者は五〇セントの買い物をすると持ち上げたものだ。

 過激な消費ぶりは統計からも見て取れる。持ち家価格の上昇分を担保とする不動産担保(ホームエクイティ)ローンは2000年から申請数が急速に伸び、そのローンで借りたカネを手に消費者は家電やクルマなどを買い漁った。個人貯蓄率は1980年代の9%から転げ落ちるように下降し、05年にはマイナス1%と、1933年以来初めて年ベースで負の数字に転落した。FDICの試算によると、05年だけでも、全米の世帯は住宅資産を担保にしたローンで6000億ドルを引き出したという。

 ところが、その貯金箱が今、幻のごとくしぼみ始めている。昨年春あたりから、まずアリゾナ州などのいくつかの主要州で住宅価格の伸び率が低下し始め、それが今年に入り他州にもじわじわと波及し始めたのだ。

 メリルリンチのエコノミスト、デビッド・ローゼンバーグ氏は、住宅価格は07年までに5%低下し、これが1兆ドルの住宅資産を消失させるとしている。米国の消費者はいきなり“打ち出の小槌”をもぎ取られたようなものだ。

相次ぐ高級住宅建設中止
価格は統計値以上に下落

 調査会社ストラテジック・エコノミック・ディシジョンズ社の試算では、不動産の資産効果は01~05年のGDP成長率を年平均2.4%押し上げた。

 この、いわば経済の大動脈たる住宅市場に対して警鐘を鳴らす数字がいまや、そこらじゅうに散らばっている。住宅建設件数はピーク時からすでに15%減少し、底を打つまでにさらに同程度の減少が見込まれている。建設申請件数も全米で20%低下した。将来住宅を買いたいと希望する人の数は、15年以来最低のレベルにある。