【津田】そういう意味では、昔の尋常小学校でやっていたような素読って、非常にいいですよね。

【斉藤】そう思います。あとは写経ですね。他者の主張を理解するには何段階かありますが、「なぜこの人はこのような主張をするに至ったのか」までをすべて解体して咀嚼していく段階では、写経するように文章を読まなければなりません。それっておそらくビジネスの世界でも同じことだと思うんです。

【津田】本当にそのとおりで、ビッグワード、たとえば「イノベーション」といった言葉をみんなやたらと使いたがるわけです。「じゃあ、何をもって『イノベーション』と言っているの?」と尋ねると、みんな「イノベーションはイノベーションだよね」としか言わない。もちろん、日本語ではニュアンスが伝わらない言葉もありますが、そのレベルの抽象的な概念はビジネスにはあまりないわけです。

帰国子女が英語を習得するときの
語学の学び方が理想

【津田】僕は英語を話すとき、いまだに頭の中で日本語を英語に「翻訳」してしまいます。教えている生徒さんたちはどうですか?

【斉藤】最初はそういう生徒が多いですね。理想として我々が目指しているのは「英語は英語、日本語は日本語で、それぞれ頭の中で翻訳しないで理解できる本当のバイリンガル」を養成することです。いわば「人工帰国子女」を育てるようなカリキュラムになっています。帰国子女が英語を習得していく過程を、人工的かつ効率的に提供するという発想です。

【津田】それが理想ですよね。

【斉藤】津田さんの本の中にもツリー図がたくさん出てきますが、「抽象的に概念を構成していく作業」というのは外国語も母語も案外共通です。外国語で概念をつくる作業をすることで、日本語の作文力や論理構成力が上昇するとか、文章を書くことが億劫じゃなくなるんです。
たとえば、うちの塾で英語の論文指導をすると、生徒の国語の成績の方が先に伸びたりするんですよ

「うちの塾で英語を習った生徒は、まず国語の点数が先に伸びたりするんですよ」(斉藤氏)

【津田】それは面白い! たしかに本質は同じですよね。福沢諭吉が貴重な蘭和辞典を2回も書き写したという話がありますが、結局、日本語と外国語は境界線の入れ方が違うから、あくまでも「意訳」しかできないわけです。つまり、「近い言葉」をもってくる。でもそのためには、日本語の意味も外国語の意味も相当厳密に理解していないとできないわけです。