どのようなタイプのリーダーが、
研究に求められるのか?
次に、研究を進める場合には、研究者を選ぶことになりますが、どのようなタイプが求められるのでしょうか。
研究部門には、頭の切れる非常にクールな人が配属されます。そのような非常に冷静でクールに判断できる、また専門分野において非常に深い技術知識をもっているタイプの人は、先ほど言いました、他に比較する基準があるテーマの研究に向いています。
つまり、同業他社が少しでも取り組んでいたり、海外のある大学教授がレポートを出していたりするテーマを追いかける場合、そのような人は、頭も非常に切れますし、専門知識も豊富ですので、非常に向いているのです。
しかし、誰もがやっていない前人未到の領域に挑戦するときには、そのようないかにも技術屋らしいタイプの人は、非常に問題があると考えています。というのは、専門分野に詳しいだけに、その前人未到のテーマがどのくらい難しく、途方もないことなのか、よくわかるのです。ですから目標設定をする段階で、すでにどのくらい難しいか、どのくらい可能性が薄いかといった、ネガティブなことをいろいろ考えてしまうのです。
これは、研究者だけについて言えることではないかもしれません。経営者、またはリーダーがもたねばならない最も大事なものも、テクノロジーなどではなく、すばらしい人間性だろうと思います。テクノロジーを駆使するのも、その人がもっている心であり、人間性です。ですから、研究開発をやっていく場合、やはりすばらしい人間性をもった、バランスのとれた人間でなければならないのです。
私が研究チームのリーダーを選ぶときには、少し陽性で、ホットで、ポジティブな考え方をする技術屋を選びます。常に前向きで、一見すると無謀で、おっちょこちょいと思われるタイプの人です。
もちろん、そういうタイプの人だけでは困りますが、少なくともネガティブな考え方をするのではなく、ポジティブな考え方、つまり可能性があるということを、まず信じられるタイプでなければなりません。可能性すら全否定するタイプではなく、少なくともチームで努力をすればできるはずだ、と信じられるくらいの情熱をもった、前向きでポジティブな考え方をするタイプの人を選ぶようにしています。
しかし、そのように陽性で、ホットで、ポジティブな考え方をする人は、どうしても緻密さが足りないということがよくあります。軽率で、単細胞だからこそ、無邪気に可能性が信じられるのです。一方、思慮分別がある人は、簡単に同調して可能性があると信じられないはずですが、簡単に同調するのは、いくらか粗野で単細胞なのでしょう。
いずれにしても、そのようなポジティブシンキングをする人、一般的には、営業に回せばいいだろうと思われるタイプの人をリーダーにして、いわゆる学校における「秀才」タイプの人を周囲につけることにしています。そして、ホットで、ポジティブシンキングをするタイプの人には、緻密さと学問的な勉強を強く求め、一方で冷静でクールな学者タイプの人には、前向きでホットでポジティブな考え方を常にするように教育をしています。そのような組み合わせでチーム編成をして、研究開発にあたっています。
※『稲盛和夫経営講演選集 第1巻 技術開発に賭ける』、「研究開発と海外活動に求められるリーダーの人間性」より抜粋