危機にあっても
メンバーを信じきる

読者の方の記憶にも新しいと思いますが、トヨタ自動車の女性役員だったジュリー・ハンプ氏が、麻薬取締法違反容疑で逮捕されるという事件がありました。

このとき、同社社長の豊田章男さんは記者会見でこんな主旨のことを語っています。

「社員は自分の家族であり、私は役員を含めてトヨタグループ関係者全体の親だと思っている。だからまずは子どもを信じるし、子どもが悪いことをしていれば私が謝る」

この会見の内容は物議を醸しました。欧米型のコンプライアンスを重視している人からは、「経営者があんな発言をするなんて考えられない」などと批判が集中したのです。

とはいえ、豊田社長の「どこまでもトヨタ社員を信じる」という発言は、ビジョン型リーダーシップの原点とも言える「任せて見守る」姿勢が徹底的に貫かれているという意味で重要です。

株主や消費者に与える印象もたしかに重要なのですが、豊田社長の発言を聞いたトヨタ社員の多くは、何を思ったでしょうか?

会社の仲間が窮地に陥ったときに、決して突き放さず信じきろうとする姿を見て、豊田社長の愛情を感じると同時に、「このリーダーを裏切るわけにはいかない」と思った人も少なくないはずです。

不祥事を容認する気はありませんが、リーダーとして仲間を信じ続けられるのは、日々のメンバーとの信頼関係があってこそです。

「自分はリーダーとして、同じことが言いきれるだろうか?」と自問することが、1つの試金石になるかもしれません。