突出したクリエイターの思考のメカニズムとは?
川村 以前に『仕事。』という僕の対話集で詩人の谷川俊太郎さんとお話をさせていただいたときに「心理学用語で“集合的無意識”という言葉があって、人間はみんなで一つの脳を持っているから、言語の違いを超えても、人類全体の無意識にアクセスできればいいと思っている」とおっしゃっていました。
川上 「みんなが知っている手法なのに、できあがったものはなんだかわからない」っていうのが強いんですよ。創作で苦しいのは、自分でゼロから生み出すこと。実際に一流のクリエイターでも全部をオリジナルでやってるわけじゃなくて、集合的無意識みたいなものを組み合わせてやっているわけですよね。
川村 突出したクリエイターは記憶力と、その膨大な記憶を要約する力が優れていますよね。そしてそれらを再構築して自分なりに表現することがうまい。
川上 例えば宮崎駿さんは見たものしか描かないんですけど、一切写真を撮らないで、覚えるんです。でも、20個くらい覚えたとしても、寝て次の日に起きて覚えているのは10個くらいなんですよ。その10個で描くから、だいたいオリジナルになるというのが、宮崎駿さんの理屈だそうです。
川村 表現する前の段階で、要約して覚えるということが大事なんでしょうね。
川上 それと解像度も大事なんじゃないでしょうか。すごく細かいことまでこだわると、作品なんてなかなか完成しないと思うんです。予算の都合もあるし、普通は時間なんてかけてられない。シナリオを作るだけで何年もかかってたら大変ですよ。
川村 延々と作らせてはもらえない。
川上 でも、例えば庵野秀明監督みたいに実績や名声があると、経済的にも社会的にも基盤があるから延々と解像度を上げることができる。誰もそんな作り方ができないから、すごい作品になるってこともあると思います。