あなたの打つ手は競争優位があるか、不利な消耗戦か?

 真正面からの競争が、消耗戦になってしまうことはビジネスでもよく起こります。前出の『競争しない競争戦略』では、競争するデメリットが3つあげられています。

(1)顧客志向から競争志向に
(2)価格の必要以上の下落
(3)組織の疲弊

 小モルトケは作戦失敗を悟り辞任、後任のファルケンファインは西部戦線の膠着をみて全面勝利を捨て、長期戦で相手国に厭戦空気を蔓延させることを狙います。これはビジネスで先行者の立場を固め、追従する企業へ「同質化戦略」を取ることに似ています。一点突破させずにライバル企業を消耗させ、撤退させることが狙いなのです。

 ドイツは敵国の領内で塹壕をつくり西部戦線を構築したので、戦線を突破させず両軍が消耗すれば、先行者利益を守り切れると考えました。逆に仏英連合軍は、先行者が築いた塹壕を突破する優位性をどこかでつくり出さなければなりません。『競争しない競争戦略』では、競争を避ける競争戦略を3つ提示しています。

(1)棲み分け(A:ニッチ戦略か、B:不協和戦略)
(2)共生(C:協調戦略)

 ビジネスで「棲み分け」を狙うことは多いものです。しかし西部戦線は興味深いことを私たちに教えています。「棲み分け」の均衡も、有利な場合と不利な場合があることです。

・棲み分けできても大企業が優位な均衡は、挑戦する下位企業には「消耗戦」となる
・下位企業が大手に侵食されない形で均衡を保つとき「健全な棲み分け」となる

 ドイツは先行者優位によりフランスを押し切ろうとして完遂できず、均衡状態からの「消耗戦」を狙いました。しかしフランスには英米の援護があり、ドイツは一時的に均衡を保ったつもりでも、相手の優位が増すと、消耗戦を仕掛けられる立場になり敗北したのです。

 これはベンチャー企業が新規性の高い技術やサービスで先行しても、後発の大企業が連合することで、一時的に保持できた均衡を潰されることに似ています。現代ビジネスでも(1)優位な消耗戦か、(2)不利な棲み分けか、(3)逆転に導く健全な棲み分けか、の判断ができなければ危機が訪れます。ドイツが自らを(2)と見抜いたなら、膠着した戦線で、勝機はフランスを孤立させることにあると見抜けたはずなのです。

 あるいは棲み分けが消耗戦に陥るのを防ぐため、コスト削減などの効率化を目指す、さらに新たな棲み分け分野を開拓強化するなどの策が必要だったのです。

「コスト削減と効率化」とは、自軍の損耗率が低い戦闘を指します。東部戦線のタンネンベルクの戦いでは、ロシア軍の損害が21万5000人に対してドイツ軍は1万5000人程度、マズール湖の戦闘でもロシア軍の12万5000人に対してドイツ軍は約1万人の犠牲者でした(強大な国力を誇るロシア軍も、この損耗で東部戦線は崩壊します)。

 ところが西部戦線ではドイツ軍と仏英軍は、一つの会戦で同程度の戦死者を出しています。両軍が共に出血する戦闘では、規模の大きい軍団を持つ側が相手に「消耗戦」を仕掛けていることになり、均衡はやがて仏英米の連合軍に有利に傾いていきます。

(第14回に続く 4/22公開予定です)