20日に発覚した三菱自動車の燃費不正問題。この会見では、不正問題以外にも驚くべき事実が明らかになった。クルマの許認可に関する権限を持つ国土交通省は、なんと自ら審査することなく、自動車メーカーからの自己申告に任せていたというのである。同様の不正は他社にも波及する恐れがありそうだ。(取材・撮影・文/ジャーナリスト・井元康一郎)

走行抵抗値を改ざんした三菱自
ここ10年ほどの最大競争領域の技術

会見で明らかになった。燃費不正以外の驚くべき事実とは Photo by Kouichirou Imoto

 三菱自動車がクルマ(軽自動車)の燃費および排出ガスの測定において重要な役割を果たす走行抵抗の値を意図的に改ざんしていたことが20日に発覚した。

 走行抵抗とは、クルマが走るときに発生する空気抵抗やタイヤ、車軸の摩擦抵抗などを合算した車体全体の抵抗のことだ。車は常にそれに抗いながら走っている。かりに空気抵抗ゼロの真空中を他の物質に接触することなく動くとしたら、いったん動き出した物体は慣性の法則によって、追加の運動エネルギーを与えなくても延々と同じスピードで動き続ける。

 そこに加わる抵抗値が大きければ大きいほど、追加の運動エネルギーをエンジンや電気モーターでより多く発生させ続ける必要がある。

 走行抵抗を減らせば、燃費を大きく向上させることができる。そのために自動車メーカーはエンジンや変速機の効率だけでなく、車体を少しでも空気抵抗の少ない形にしたり、転がり抵抗の少ないタイヤを使ったり、車軸がよりスムーズに回るような技術を開発したりといった努力をしている。

 走行抵抗に関する技術は、ここ10年ほど、エンジンの熱効率の改善と並んで、世界の自動車業界においては最大の競争領域となっていた。

 今回の三菱自の不正は、まさにその部分をターゲットとしたものだった。国交省の燃費、排出ガスの計測は実走行ではなく、クルマをローラーの上に置き、ゴロゴロとローラーを転がすというやり方で行われるのだが、それだと空気抵抗がかからず、正しい数値が得られない。

 そこで、あらかじめ変速機をニュートラルにした状態でクルマを走らせ、どのくらいスピードが落ちるかを測ることで車体の空気抵抗値を割り出しておき、そのぶんローラーの抵抗を増やして、走っている時と同じような状態を仮想的に作り出す。

 その前提となる値にごまかしがあれば、燃費は当然正しい数値にならない。記者会見での三菱自の説明によれば、数値をごまかしたことによる燃費改善率は車種によって5~10%、平均で7%ほどであったという。これは赤信号などで停止した時にエンジンを止めて燃料を節約するアイドリングストップ機構をつけるのに近いくらいの大差だ。