「みんなの意見」からも
「本当の値打ち」はわからない

このマンションの話をすると、「そうか、わかりました!」という人がいる。その人の言い分はこうだ。

「あるモノの価値は、市場の取引で自然に決まる。マンションが高値で取引されているバブル時には1億円だし、バブルが終わって5000万円くらいで取引するのが一般的になっているときは、そのマンションの価値も5000万円になる。

コーヒーも同様に説明できる。コーヒーが1杯平均250円の地区では、それくらいにしないとコーヒーが売れないから、250円くらいに収束する。銀座のようなエリアだと、1000円くらいでもコーヒーが売れたという先行事例がすでにあるので、ほかの出店者も高めの価格設定をする」

実際、多くの企業が価格決定をするときには、競合商品の価格を参考にしているはずだ。これまた合理的な考え方に思えるし、コスト・アプローチ(原価法)よりも説明能力が高そうである。

このように「すでに存在しているほかのモノの市場価格によって、そのモノの価値が決まる」という考え方は、マーケット・アプローチ(取引事例比較法)などと呼ばれる。

しかし、マーケット・アプローチもまた、価格と価格を比較しているにすぎず、そのモノ自体の価値に迫っているとは言えない。そもそも比較対象の価格がデタラメだった場合、価値評価が大きく誤ることになる。

不動産会社のセールスマンは「ここだけの話ですが……このマンションの隣の部屋は、先週に1億1000万円で売れました。ですから、今日ご提案している1億円は絶対にお買い得ですよ!」などと言うだろう。

しかし、隣の部屋を買った人も「下の階の同じ部屋を1億2000万円で買った人がいましたよ」などと言いくるめられているかもしれない。こうなると真偽のほどは怪しくなってくる。本当はどちらも5000万円の価値しかないなんてことも十分あり得るのだ。

ここからもわかるとおり、「適正価格は市場が決める」という考え方にも疑わしい部分が残る。このマーケット・アプローチの歪みが最も顕著な形で現れる取引の1つが「オークション」である。次回はその話からすることにしよう。