「過去の費用」からは
「現在の価値」がわからない
コスト・アプローチは僕たちにとって、最も身近でシンプルな価値の評価方法である。以前の連載でも、ギザのピラミッドとヴェルサイユ宮殿の価値を、建築コストで比較した。そこでは、コスト・アプローチで考える限り、ピラミッドのほうが圧倒的に価値が高そうだという話をした。
また、こんなことを言っている人を見かけたことがある。
「120円のコーラ1缶って、中身の原価は5円らしいよ」
「えっ? そんなに安いの? ひどい、ぼったくりだ!」
この原価情報の真偽のほどはさておくとしても、コスト・アプローチで考えると、こういうことは頻繁に起こる。では、価格120円のコーラには、5円の価値しかないのだろうか? そんなことはないはずだ。
さらにコスト・アプローチにはもう1つ、致命的な欠点がある。それは時価がわからないということだ。
ビジネスの世界では赤字ばかり出すわけにいかない以上、初期コストを回収できるような価格設定がなされる。しかし、そのときどきの値段、つまりモノの時価は、コストをもとに決まったりはしない。
たとえば、1990年の不動産バブルのときに建てられたマンションDがあったとしよう。このマンションが新築で売りに出されたときには1億円だったとする。この段階では、原価法をもとに価格が決定されたのかもしれない。
マンションDの価格 = 土地の値段 + 建築コスト + 仲介業者などの利益
しかし、バブル崩壊後、近隣に同グレードのマンションEが建てられ、新築にもかかわらず5000万円で売られはじめたらどうだろうか? マンションDのオーナーは原価の1億円に固執するだろうか? やはり近隣の相場に自分のマンションの値段を合わせなければ売れないことは自明だ。
つまり、モノの価値はコストの積み上げだけでは、説明がつかないのである。